英国の置土産、デカン高原で半野生化したアガベをスピリッツに
India [Chittoor]
2026.09.10
text by Akemi Yoshii
生垣として育つアガベ。インドで自生しているアガベは数種あるが、蒸溜所「デズモンドジ」が使用するのはアガベ・アメリカーナ。テキーラの原料であるアガベ・テキラナとは別の品種で、メキシコではメスカルの原料として使われることもある。
アガベ(竜舌蘭)を原料としたお酒といえば、メキシコのテキーラが有名だが、酒類業界のデータ機関IWSRによると、インドのアガベスピリッツ市場は2024〜25年に31%増の急成長を遂げている。それだけではない。国産アガベを使ったスピリッツも広がりを見せているのだ。
アガベがアメリカ大陸からインドに持ち込まれたのは19世紀後半、英国統治時代に遡る。鉄道線路に動物が入らないようフェンス代わりに植えられ、繁殖・半野生化したのだという。以来、農家から邪魔者扱いされてきたこの植物が、今、蒸溜酒の原料として活用されているのだ。
その先駆けが、アーンドラ・プラデーシュ州チットゥールにアジア唯一のアガベスピリッツ蒸溜所を構える「デズモンドジ(DesmondJi)」だ。長年米国に住み、2000年にインドへ戻ってきた創業者のデズモンド・ナザレス氏は、故郷ムンバイでマルガリータ用のテキーラを探したがなかなか見つけられず、「なぜテキーラはメキシコでしか作られないのか」とふと疑問を抱いた。
原料となるアガベの写真を見た時、子供の頃、列車の車窓から見た植物を思い出し、メキシコのアガベ産地と同じ緯度を辿るとインドのデカン高原を横断していることに気づく。その後、実際に半野生化したアガベを発見。07年には蒸溜所を立ち上げ、11年にはデズモンドジの名でインド初のアガベスピリッツを発売した。
「インドの複雑な酒類業界の状況下で、クラフト蒸溜所をゼロから築きあげることは容易ではありませんでした」と、デズモンドさん。土地探しや、汚職を一切排除する姿勢を貫きながらの行政手続きに加え、まったく新しい製品カテゴリーを確立するという、何重にも困難な道を彼はやり遂げた。
デズモンドジが手がけるアガベスピリッツは、アガベとサトウキビをミックスした「アガベ(AGAVE) 51」、それを焦がしオーク樽で仕上げた「アガベ 51 ゴールド (AGAVE 51 Gold)」、そしてアガベ100%の「アヤム(AYAM)」の3種だ。
現在は複数の国産アガベスピリッツブランドが生まれており、デズモンドジは原酒を供給している。さらに海外への輸出や、海外メーカーとの提携など、インド産アガベスピリッツは世界的に認知されるカテゴリーへと進化している。
「野生資源だけでは供給に限界があり、今後の成長には農業インフラの整備が欠かせません」と語るデズモンドさんは、2万5000エーカー(約101km²)規模の計画栽培プロジェクトを進行中だ。樽熟成施設の整備や、国内外の販路拡大にも取り組む。
デズモンドジでは他にも、アカテツ科のマフアーの木の花由来の蒸溜酒など、意欲的なスピリッツづくりを行っているのも興味深い。かつて英国統治下で禁じられていたマフアー酒を、インドの文化的遺産として見直す動きも進んでおり、GI(地理的表示)認定の取得や世界展開も目指す。
歴史の巡り合わせを味方につけながら、インドは今、独自のスピリッツ文化を世界に示しつつある。
◎DesmondJi
AGAVE 51 900〜2380ルピー/750ml
AYAM 1200〜2950ルピー/750ml
AGAVE 51 Gold 1299〜2320ルピー/750ml
https://desmondji.com/
*1ルピー=1.66円(2026年9月時点)
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