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JOURNAL / 世界の食トレンド

アジアが世界のガストロノミーをリードする時代へ

Thai [Bangkok]

2026.08.31

アジアが世界のガストロノミーをリードする時代へ

text by Rie Suzuki
「クリスピー・タルトレット・セビーチェ」。コンセプトは陸と海の食材の組み合わせ。陸の要素にはビーツ、海の要素にはマダイとマグロを使用する。新鮮さを感じさせつつ、意外性のある味わいの組み合わせを楽しめる一皿を目指した。さらに、リコリス(甘草)のクリームを合わせてコクをプラスし、セビーチェのフレッシュな味わいに奥行きと絶妙なバランスをもたらしている。

2026年「アジアのベストレストラン50」で、バンコクはアジア17都市の中で最多となる9軒がランクイン。同年の『ミシュランガイド タイ』には43軒の星付きレストランが掲載され、その多くはインド料理をはじめとするタイ料理以外のレストランが占めている。多様な文化と才能が集まり、世界中の料理人を惹きつける都市へと成長したバンコクは、今、アジアのガストロノミーを語る上で欠かせない存在となっている。

長年、香港のフレンチシーンを牽引してきたヴァンサン・ティエリー(Vincent Thierry)氏も、その可能性に魅せられた一人だ。2019年から、バンコクを代表するホテル「ルブア(lebua Hotels & Resorts)」の「シェフズ・テーブル・バイ・ルブア(Chef’s Table by lebua)」でオープニングから総料理長を務め、新たな挑戦を続けている。

ヴァンサン・ティエリー氏
ヴァンサン・ティエリー氏(Vincent Thierry)は、パリの名店「ル・サンク(Le Cinq)」での活躍を経て、2005年、香港「カプリス(Caprice)」のオープニング・シェフに着任。2009年、『ミシュランガイド香港』初刊で二ツ星を獲得する快挙で、瞬く間に時の人となった。パリからアジアに移り20年以上、アジアのガストロノミーの中心で活躍している。

「アジアに活動の場を移してからの数年間で、美食を取り巻く環境は劇的に変化しました。今日ではサステナビリティや健康への配慮、食材への敬意がこれまで以上に重要になっています。さらに、ソーシャルメディアによって、ビジュアルによるストーリーテリングも食体験の一部になりました。私たちシェフは、おいしい料理を作るだけではなく、そうした価値観を料理に反映させ、人々の記憶に残る体験を創り出すことが求められています」

シャラン産鴨胸肉、クミン風味のキャロットグラッセ、ソレルリーフのサラダ、ヤングガーリックのクリーム
「シャラン産鴨胸肉、クミン風味のキャロットグラッセ、ソレルリーフのサラダ、ヤングガーリックのクリーム」。ヴァンサンシェフのスペシャリテ。柔らかくジューシーな肉質で知られるシャラン産鴨肉は、皮目からじっくりと火を通し、その豊かな脂の旨味を引き出す。ニンジンは染み出す水分のみでグラッセし、クミンとクミンに似た香りを持つタイのハーブ、pakayen(パックカエン)で風味付けする。メインが運ばれる前に、ひと匙のニンジンのジュを味わい、口の中を整える。ソレルリーフ(オゼイユ)で包んだニンジンサラダとヤングガーリックのクリームが、フレッシュなアクセントを加える。仕上げはテーブルサイドで、シェフが鴨の肉汁を皿に注ぎ入れて完成する。
ヒメジの炭火焼き、フォンダン・シャルロット・ポテト ガーデンリーフ、アーモンドフォーム
「ヒメジの炭火焼き、フォンダン・シャルロット・ポテト ガーデンリーフ、アーモンドフォーム」。ヒメジは日本産の炭で焼き上げ、繊細な香りと素材本来の風味を損なわないよう、表面に美しい焼き色を付ける。付け合わせのフォンダン・シャルロット・ポテトは、クリーミーな食感とのバランスを取るためにフレッシュハーブを合わせる。ブイヤベース風魚のスープ仕立てのソースが味わいに深みを与え、ヴェルヴェーヌのエマルジョンが軽やかさを添えている。

ヴァンサンシェフが重視するのは料理だけではない。「私にとってチームこそがレストランで最も重要な存在です」と語るように、人材育成にも力を注ぐ。

「規律と創造性が共存する環境の中で若い才能を育てることは、常に最優先事項の一つです。調理技術だけでなく、ホスピタリティや敬意、規律、チームワークといった価値観を、キッチンとサービス全体で共有しながら、日々より良いレストランづくりを目指しています」

こうした考え方は、アジアの未来への期待にもつながる。

「今日のお客様は、これまでになく知識が豊富で好奇心も強く、新しい食体験を積極的に受け入れています。今後、アジアは世界のガストロノミーをリードする地域になるでしょう。特にタイには、すばらしい食材、文化的多様性、そして優れた才能があります。未来のガストロノミーは、ますますアジアによって形づくられていくと信じています」

世界で経験を積んだ料理人たちが、いま次の挑戦の舞台としてバンコクを選ぶ。その背景には、食材の豊かさだけではなく、多様な文化を受け入れ、新しい価値を生み出す土壌がある。ヴァンサン・ティエリー氏の歩みは、アジアの美食地図が大きく塗り替えられつつあることを象徴している。

カッラーラ産大理石で作られたモルテニ製オープンキッチンを中央に設えた豪奢な空間
カッラーラ産大理石で作られたモルテニ製オープンキッチンを中央に設えた豪奢な空間で、地元の食材をふんだんに使った料理を提供する。東南アジア諸国の経済成長に伴い、社交としてのレストランの役割が重要になっている。

Chef’s Table by lebua
61st Floor, State Tower Bangkok, 1055 Silom Road, Bangrak, Bangkok
Tasting menu
Signature 7品 9200タイバーツ、ワインペアリング+8800タイバーツ
Creation 5品 6800タイバーツ、ワインペアリング+5800タイバーツ
https://lebua.com/restaurants/chefs-table/

*1タイバーツ=4.78円(2026年8月時点)

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