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JOURNAL / 世界の食トレンド

自己コントロールを取り戻す若者のアナログ回帰。手料理に励むZ・α世代

Norway [Oslo]

2026.08.03

自己コントロールを取り戻す若者のアナログ回帰。手料理に励むZ・α世代

text by Abumi Asaki / photographs by Norges sjømatråd/Norwegian Seafood Council/Godfisk
ノルウェーの若者たちのあいだで、家で料理というアナログな作業への関心が静かに高まっている。デジタルの喧騒から離れ、キッチンに立つ時間が、自分を取り戻す場所になりつつあるのだ。

毎日平均7.3時間をネットに費やし、猫動画と戦争ニュースと気候危機が同じタイムラインに並ぶ世界を生きるZ世代・α世代。アルゴリズムが勧める画面から離れられない若い人々は今、意外な場所に逃げ込もうとしている。キッチンだ。

ノルウェーの調査会社オピニオンが15〜25歳を対象に実施した若者意識調査「UNG 2026」は、この世代の内面を鮮明に映し出している。アナリストのアレクサンドラ・パルム氏が指摘するのは、高い理想と現実の間に広がる深い溝だ。「人が口にすることと、実際に行動することは違う。高い野望と目標を持ちながらも、現実の達成は難しい」。71%が物価上昇を、60%が自分の将来を、58%が戦争や社会不安を、57%が自身の経済状況を心配している。

それでも彼らは、外側のカオスを内側からコントロールしようとする。「十分に眠れているか、運動しているか、正しい食生活を送れているか」。「そもそも自分はグッドイナフ」か――つまり「このままの自分でいいのか」。そうした問いかけのなかで、パン作りのような、一から手を動かすアナログな作業は今「心配や不安を減らすための手段」になりつつある。

やっかいなのは、情報過多そのものが新たなストレス源になっていることだ。何を食べるべきかをめぐる大量の情報に埋もれてストレスを感じている若者は38%にのぼり、「結局どの食事が健康的なのか理解しにくい」と感じている人も27%いる。この世代はデジタルメディアの中で育ち、「全てが正しいわけではない」と知っている。情報源に対して批判的な眼差しを持つ世代だ。だが、1日に処理し判断しなければならない情報量が多すぎる。
「かつての世代は、新聞を置き、チャンネルを消すという選択ができた。今の若者にはそれが難しい。アルゴリズムが彼らを手放さない」とパルム氏は指摘する。

その一方で、3人に2人はSNSで新しいレシピを見つけている。49%はTikTokで食事に関する投稿を見ており、27%はインスタグラム、26%はYouTubeを利用する。SNSは、若者がデジタルの世界から身体を動かすアナログの世界、つまりキッチンへと導く「招待状」にもなっているのだ。

料理への関心の高まりは数字にも表れている。生地づくりから料理する若者の割合は、2025年の調査時の55%から64%へと上昇。超加工食品を制限しようと考えている割合も36%から46%に増えた。ノルウェー産食材、地産地消、オーガニック、自然の原材料への関心も高まっており、余暇時間に最も関心のある行為として「食事」が挙がっている。新しいレシピや食品を試すことに喜びを感じる若者が増えているのだ。

料理の写真
リアル、ナチュラル、オリジナルを求める声が高まるほど、伝統的なノルウェーの原材料の価値が上がる。これは、過ぎ去ってしまったものをあえて手に取る勇気の表れとも言えるかもしれない。

SNSに投稿された食事関連コンテンツを分析するとパンや菓子が最も多く、次いで肉、チキン、シーフードと続く*。シーフードの中では養殖サーモンとタラの人気が特に高い。注目すべきは、その広告塔の顔ぶれだ。アーリング・ハーランド選手をはじめ、ノルウェーを28年ぶりのワールドカップ出場へと導いたサッカー選手や人気のインフルエンサーたちが、養殖サーモンやシーフードを勧め、スーパーの商品パッケージに登場し、料理する姿をSNSで発信している。

広告会社TRYのアドバイザー、カミーラ・サンド氏によれば、この世代が信頼を寄せるのは、磨き抜かれた完璧な広告ではなく、生身の人間がつくるコンテンツ、繰り返し届けられる誠実なメッセージだという。スポーツのヒーローたちが「食べること」「つくること」の価値を体現することで、手料理への関心はさらに広がりを見せるかもしれない。

デジタルとアナログのはざまで揺れながら、自分の生活を取り戻すための選択として、今日もノルウェーの若者はキッチンに立つ。

*パン&菓子31.9%、肉24.6%、鶏11.1%、魚介9.1%


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