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JOURNAL / 世界の食トレンド

「総合防衛の年」を迎えたノルウェー政府が提唱。自分と家族の食を守る防災習慣とは?

Norway [Oslo]

2026.09.17

「総合防衛の年」を迎えたノルウェー政府が提唱。自分と家族の食を守る防災習慣とは?

text by Asaki Abumi
2024年に発表された、1週間に備えておいたほうがいいと推奨されるグッズ。寒くて長い冬が続くノルウェーでは、今でも多くの家庭に暖炉があり、キャンドルやマッチと同じように薪も一年を通してスーパーで気軽に買うことができる。自然が豊富で、普段からキャンプに出かける人が多いこともあり、携行コンロを持っている人も少なくない。photograph by Ivar Kvaal / DSB

目次






2026年、ノルウェーは「総合防衛の年」を迎えた。安全保障上の危機や戦争に備えるための国家的な取り組みとして位置づけられたこの年、ロシアとの国境や欧州の地政学的状況、気候危機、パンデミックの記憶が重なるなかで、ノルウェー政府は国民に問いかけている。「あなたは、いざというとき、自分と家族の食を守ることができるか」と。

そのために動いているのが、ノルウェー社会安全・緊急準備局(DSB)だ。同局のコミュニケーション・ディレクター、オイスタイン・ミャールム氏は言う。「日常的な備えを徹底することは、敵意を持つ者を抑止する効果もある」と。


最低3日から7日へ延長、食料の推奨備蓄期間

DSBがノルウェー国民に推奨する食の自己備蓄期間は、2018年には「最低3日間」だったが、24年には「1週間」へと延長された。背景には地政学的リスクの高まりだけでなく、ノルウェー固有の地理的事情がある。

細長い国土に人口が分散し、悪天候に見舞われることも多く、サプライチェーンはもともと脆弱だ。食料の大規模な貯蔵施設は首都周辺に集中しており、地方への物流が途絶えるリスクは常に存在する。さらに、ノルウェーは食料の多くを輸入に頼っている。停電や断水が起きれば、スーパーマーケットの営業さえ困難になる。

透明な収納ボックスに保管
水や火が使えなくても、1週間買い物ができなくても自力で生活できるか。透明な収納ボックスに保管すれば、食品などの量や状態も把握しやすい。photograph by Ivar Kvaal / DSB

普段食べているものを、家庭と国家で余分にストック

薄焼きの乾いたパン、オートミール、缶詰、乾燥パスタ・・・。DSBが推奨する備蓄食品のリストには北欧の食卓で日常的なものが多い。「比較的安価で購入でき、調理をほとんど必要とせず、長期保存が可能」という条件を満たす、冬が長い北欧の食文化に根ざした保存食品たちだ。

特別な備蓄食品を用意する必要はない。「普段食べているものを、少し余分に持っておくだけでいい」とミャールム氏は強調する。この発想は、日本の「ローリングストック」の考え方と本質的に同じだ。DSBが2024年秋に全国のすべての家庭に配布したパンフレットにも、「なくなる前に買い足せば、常に余分な備蓄ができる」と明記されている。

ノルウェーは、2029年までに食用穀物の国家緊急備蓄を2万2500トン確保する計画だ。これはベーカリーを含む食品産業と家庭の消費を合わせて、約3カ月間分に相当する。国家レベルの備蓄と、個人レベルの備蓄という両輪で、食の安全保障を支え、社会全体の強靭さにつなげようとしている。

DSBが2024年秋に全国のすべての家庭に配布したパンフレット
冊子の中では「冷蔵・冷凍食品など賞味期限の短い食品から先に使用すること」「キャンプ用コンロ、ガスコンロ、グリルでの調理を予定している場合は、器具が良好な状態であるか定期的に確認すること」などが書かれている。photograph by Daniel Fatnes / DSB

鍵を握る広報戦略

国民に備えを促すうえで、DSBが力を入れているのが継続的な広報活動だ。毎年秋に実施される「自己の備え週間」では大手チェーンや関係事業者にDSBの計画を共有し、2024年にはすべての家庭にパンフレットが配布された。ミャールム氏によれば、こうした活動の積み重ねにより、現在では多くの人が当局の自己の備えに関するアドバイスを認知しているという。

言語の壁にも対応している。移民の中には、ノルウェー語での情報収集が困難な場合もある。DSBはパンフレットを複数言語に翻訳して公開するとともに、よりシンプルでビジュアル重視の簡易版も制作している。地域社会への浸透については、各自治体やボランティア団体との連携に頼る部分も大きいと同氏は率直に認める。

日本のように地震が頻発することのない北欧諸国では、国境を接し、海域でも向き合うロシアの脅威や近年の地政学の変化がより身近な恐怖だ。「最悪の事態に備えて」と国が国民に呼びかけるメッセージやニュースは、近年顕著に増加している。人々を不安にさせるのではという指摘もあるが、むしろどう対応したらいいのか住民一人ひとりが把握していることが、先行きへの不安を減らし、国全体の強靭さにつながるという考えが強い。

「総合防衛の年」を迎えたノルウェーから届くメッセージは、案外、食卓の時間を大切にしているすべての人にとって身近なものだ。「保存食を少し余分に備える」という日々の小さな備えが、やがて社会全体の強靭さへとつながっていく。


ノルウェー社会安全・緊急準備局(DSB)が提唱する食の備え
・常温で保存できる、賞味期限の長い食料を余分に備えておくこと。
クネッケブルー(クリスプ・ブレッド)、オートミール、缶詰のレンズ豆と豆類、缶詰の惣菜、エナジーバー、ドライフルーツ、チョコレート、はちみつ、クッキー、ナッツ類が良い例。
加熱調理が必要な長期保存食の例としては、パスタ、米、袋入りスープ、小麦粉、缶詰の夕食料理、フリーズドライ食品。
・家庭内に特定の食料を食べられない人や特定の食料が必要な人がいる場合は、それを考慮して計画を立てること。
・アウトドア用コンロ、ガスバーナー、ガスグリルでの調理を想定している場合は、機器が正常に動作し良好な状態にあるかを定期的に確認すること。


DSB/Totalforsvarsåret 2026(総合防衛の年)
https://www.dsb.no/ros-og-beredskap/totalforsvarsaret-2026/

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