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JOURNAL / 世界の食トレンド

もう一人で抱えなくていい――飲食業界の苦境を経済・精神の両面で支える非営利団体

America [New York]

2026.07.21

もう一人で抱えなくていい—―飲食業界の苦境を経済・精神の両面で支える非営利団体

text by Akiko Katayama / photographs by Southern Smoke Foundation
チャリティイベントで精力的に支援を募る「サザン・スモーク・ファウンデーション」創始者のクリス・シェパード氏。

近年アメリカで注目を高めているのが、飲食業界の経済基盤の脆弱性と、業界人材のメンタルヘルスだ。前者は「利益率が低い」「家賃ほか固定費負担が高い」「景気や消費動向の影響を受けやすい」などが主な要因である。後者は長期の立ち仕事、厨房の高温多湿や騒音などの過酷な労働環境、不規則なシフトと長時間労働、顧客のクレーム対応など様々な要素が、時には経済的負担と相まって、人々の強い精神的圧迫につながっているという。

これらの課題に着目したのがシェフ、クリス・シェパード氏である。氏は2014年、料理界のアカデミー賞とも呼ばれる「ジェームズ・ビアード財団賞」の「アメリカ南西部ベストシェフ」にも選ばれた優れた料理人。複数の店舗経営を踏まえ、業界の現状を目の当たりにしてきた氏は、2015年に非営利団体「サザン・スモーク・ファウンデーション(Southern Smoke Foundation)」を設立し、以来多くの業界関係者を支援してきた。

団体の主なプログラムは、業界関係者の事故や病気などの緊急事態時の資金支援、そしてメンタルヘルスの無料カウンセリングの2本。支援資金は、けが・病気、自然災害、勤務先の閉店ほか、様々な場面に対応している。また対象者は幅広く、飲食店のスタッフに限らず、農業従事者から酒造製造者まで、業界を支える重要な存在も忘れることなくカバー。具体的には食料、衣料、薬剤、家賃、光熱費など、生活に必要な資金を供給し、これまでの支援額は1600万ドルに上る。

飲食業界の軸となる厨房スタッフ
飲食業界の軸となる厨房スタッフ。彼らの安定した生活を支援するのが「サザン・スモーク・ファウンデーション」の目的だ。

一方、メンタルヘルスのサポートは、現在全米13州で大学の専門家による無料カウンセリングを1人最大20回、もしくは6カ月間提供。それ以外の州では、上記の資金支援のプログラムを通じてサービスを受けられる。これまでのカウンセリング実績は1万1000 回を超える。

気になるのは資金繰りだが、団体の本拠地であるテキサス州ヒューストンや他都市で、著名シェフを集めた大規模なフードフェスティバルやワイン・オークションなどを開催したり、企業のスポンサーなどを通じて支援を確保。これまでの安定した資金繰りは、同団体への強い共感とサポートを反映する。

チャリティイベントにて
チャリティイベントにてボランティアで調理したシェフとスタッフ。料理界コミュニティの強さを象徴する。

こうした活動の切り盛りは容易ではないはずだ。同団体の「最高使命責任者」の肩書をもつカタリーナ・ビル氏に苦労する点を尋ねると、「まず、我々の提供するような支援の存在すら知らない業界関係者が、とても多いということです」と話す。「苦境が当たり前、だから耐えるしかない」という社会的な認識が一般化していること自体が、まず問題の根底にありそうだ。

またビル氏は「“自分たちがやらないこと”を意識していることも、団体の活動の重要な指針です」と語る。「なんでも手がけてあらゆる人たちを助けたい、という気持ちは抑え、実際に効果を上げてきた支援活動に専心する。その線引きによって、個人的なつながりを大切にしながら、ブレのない活動の展開と拡大を進めることが可能になっていると思います」

今後は全米各地でくまなく支援を提供することを目指し、長期的には法律関連の支援を加えて、現状の活動強化も検討しているそうだ。

こうしたひたむきな努力は高く評価され、2026年のジェームズ・ビアード財団賞では、料理界に価値あるインパクトを与えた功績を讃える「インパクト賞」を受賞している。

アメリカ飲食業界の問題は、日本の現状にも多く共通点がある。ホスピタリティに献身する人々の健全な生活は、社会全体の豊かさにつながる。サザン・スモーク・ファウンデーションの成功モデルは、日本にも応用できるかもしれない。


Southern Smoke Foundation
https://www.southernsmoke.org/

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