“Sweet+Savory=スワボリー”でデザートの定義を押し広げるミシュラン店
America [San Antonio]
2026.10.26
text by Kuniko Yasutake / photographs by Robert J. Lerma
Umamiコースの一皿めは、青ネギ風味のクリームを挟み、オセトラキャビアでアクセントをつけた「グリーンオニオン・ミルフィーユ」。ミルフィーユ生地の油脂分はすべて、テキサス産の無殺菌ヒツジ乳チーズ由来だ。
スイーツやスナックに甘さや塩味だけでなく、より複雑なフレーバーの組み合わせを好むアメリカ消費者が増えている。「甘味(sweet)」と「コクや旨味のある塩気 (savory)」を掛け合わせた風味の総称として、「スワボリー (swavory)」という造語ができるほど。この潮流を押し広げる1軒、料理人によるデザートのみのおまかせコースを提供する「ニコシ(Nicosi)」の躍進が目覚ましい。
テキサス州第2の都市、サン・アントニオで2024年春にオープン。酸味、旨味、苦味、甘味の4つの味覚プロファイルを用い、一口サイズの“スモール・バイツ”とメインディッシュに仕立てた全8品を、4つのペアリング・ドリンクと共に楽しめる。テキサスの風土を感じさせる地元産食材が6割、それを引き立てるグローバル食材が4割という独自の黄金律をベースに、客を飽きさせないよう、メニューは3カ月毎に一新する。内容は着席するまで明かされず、店内では撮影禁止に同意できることが予約の条件だ。「今、ここ」にある一皿と料理人との対話でしか味わえない、意外な発見と体験に集中してもらうことを大切にしている。
シェフでR&Dも担う、ホルヘ・ルイス・ヘルナンデス氏によれば、ニコシが考えるデザートを定義するのは甘さではなく、製菓技術が可能にする食感や温度、味の強弱の組み立てだという。店を始めてから料理人たち自身も驚いたことは、スワボリー(旨味を感じつつ甘さを抑えた風味)を創造するうえで、様々な野菜が予想以上に主役となったこと。そして、同店が提唱する新しいカテゴリーのデザートに対し、客が高い信頼と期待を寄せ続けていることだ。
さらに興味深いのが、アジアとテキサスの交差だ。地元食材から醤油、みそ、麹といった発酵旨味調味料を自家製し、精製糖に頼らず、新しく深い甘味を作り出す。日本茶の製法をテキサスに自生するヤポンノキの加工に応用するなど、アジアの技術を地元の素材に重ねている。
甘さはどこから生まれるのか。何をもってデザートと呼ぶのか。料理人自らが製菓の既成概念を問い直しながら、その答えを一皿ずつ提示するニコシ。実験的なデザート専門店としてスタートしたその試みは、米国のデザート専門店で唯一、ミシュランの星を獲得した今も続いている。
◎Nicosi
221 Newell Avenue, San Antonio, TX 78215
☎+1 (210) 759-0088
17:30と20:00 各20席 要予約 8皿のコース120ドル
月曜、火曜休
https://nicosisatx.com/
*1ドル=158円(2026年10月時点)