高級リストランテを抑え、ネオ・トラットリアが頂点に。イタリア料理界に起きる地殻変動
Italy [Brione]
2026.10.01
text & photographs by Sayaka Miyamoto
かつて地元で愛されていたインゲン豆の一種「Amazza Fame」は、粒がとても大きく、貧しかった時代にお腹と栄養を同時に満たしてくれたことから、“空腹をやっつける”という意味を持つ。栗のような歯応えがある。豊かな時代になり、忘れられかけていたその豆をピュレ状に仕立て、自家製味噌で味を調えた。発酵、脱水、燻製という工程を経た後で野菜のフォンにつけて再度柔らかくしたメロンは、肉のような歯触り。トーストしたメロンのタネをトッピングして。
「安くて素朴」「伝統的な郷土料理」を看板に掲げ、イタリア全国民に愛されてきたイタリアのトラットリアやオステリアという外食カテゴリーに今、大きな変化が起きている。
始まりは10年ほど前に遡る。ミラノの「トリッパ」、ローマの「サント・パラート」という、偶然にも同じ内臓料理を看板にする2軒のトラットリアが、次世代シェフたちの手によって再定義された。それは「安くて素朴」「変わらない味を食べる安心感」のある存在から、「伝統的なレシピを最新の技術でより高精度に仕上げた料理」をカジュアルに楽しむ場所への変換だった。幅広い世代から支持を得たその潮流は「ネオ・トラットリア」ブームと呼ばれ、イタリア全国で多くのシェフたちが後に続いた。
そして今、その流れが頂点に達した。『ミシュラン』と並ぶイタリアの権威あるレストランガイド『ガンベロ・ロッソ』2026年版で、1軒のトラットリアが並み居る高級リストランテやスターシェフたちを抑えて、年間最優秀レストランに選ばれたのだ。
そのトラットリアとはロンバルディア州ブリオーネにある「ラ・マディア(La Madia)」。店名は「伝統的な木製の食器棚」を意味し、1998年創業当時は郷土の伝統料理を丁寧に提供し、地元の人気店として知られていた。スローフード協会が保護する郷土の食材や、持続可能性を反映した料理を提供する中で、オーナーでシェフのミケーレ・ヴァロッティ氏が、発酵技術を伝統料理に取り入れメニューの再構築に舵を切って行ったのは自然な流れだった。
現在ラ・マディアのメニューは、食材の無駄を出さないよう7皿と10皿のコース料理のみ。地元生産者の食材を世界の伝統的な発酵技術などを駆使してよりおいしく、より栄養価を高めた料理を提供する。
「伝統料理とは過去の再現ではなく、発酵や素材の使い切りといった、農民文化から受け継いだ知恵の進化だ」とミケーレシェフは言う。トマトや豆など、イタリア人にとってとても身近な食材が、未知の技術によって新しい風味や栄養を与えられ、食べる人々に驚きや楽しみを与えてくれる。そんな新しい形の伝統料理が、今後のイタリア料理界をますます楽しくしていきそうだ。
◎Trattoria La Madia
https://www.trattorialamadia.it/
*1ユーロ=181円(2026年9月時点)