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JOURNAL / JAPAN

緻密な果肉、ふくよかな香り。山梨・大藤流仕立ての大玉の桃を訪ねて

早川宏 ×「LESS」<パティシエ編>

2026.10.01

【PROMOTION】text by Michiko Watanabe / photographs by Hide Urabe

桃王国・山梨の中でも、粒揃いの大玉と極上の甘さで知られるブランド産地、甲州市塩山の大藤地区。この地で3代続く桃農家を営む早川宏さんを訪ねたのは、東京・恵比寿のペストリーショップ「LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura」パティシエの坂倉加奈子さんです。

旬のフルーツを繊細に生かす坂倉さんが出会ったのは、主枝4本・弱剪定という独自の“大藤流仕立て”で育てられた、とびきり甘い大玉の桃たち。ぎゅっと濃密に締まった果肉から生まれる、さっくりとした歯ざわりの食感が、坂倉さんの創作意欲に火をつけました。

目次








早川さんの「なつっこ」
大玉でしっかりした果肉を持つ川中島白桃と、濃厚な甘みが持ち味のあかつきの長所を受け継ぐ。緻密で締まりのある食感で熟しても柔らかくなりすぎない。収穫期間が短くなるなか、フォトジェニックなビジュアルは”大藤流仕立て”のたまもの。


坂倉加奈子(さかくら・かなこ)

坂倉加奈子(さかくら・かなこ)
三重県生まれ。大阪辻製菓専門学校を卒業後、渡仏。パリのパティスリーで研鑽を積み、ノルウェーや都内レストランでペストリーシェフを歴任。アメリカで出会ったミラノ出身のパティシエ、ガブリエレ・リヴァさんとパートナーシップを組み、2019年に現店をオープン。店名(「Less is more(少ないことは、よりよいこと)」に因む)が示すとおり、引き算の美学を体現するシンプルで上質なスイーツで国内外に多くのファンをもつ。

日本一の生産量を誇る桃王国・山梨県の中でも、とりわけ高品質なブランド桃の産地として知られる甲州市塩山の大藤地区。JR中央本線・塩山駅北東の丘陵に広がる果樹園地帯だ。


大玉を育む、大藤の風土

大藤地区の標高は約500〜700m。収穫の最盛期を迎えた8月初旬、共同選果場に着くと、一服の涼を感じる風が肌を吹き抜ける。うだるような暑さの市街地に比べ、体感温度で2度以上は違うのではないだろうか。

「夜間は夏でもひんやりしていますね。盆地特有の気候で日照時間が長く、昼夜の寒暖差があり、扇状地に広がる火山灰土壌は、地力があり桃の木が大きくなりやすい。桃の品質評価は大きさ、糖度、着色が三大規準ですが、大藤はすべてにおいて最高ランクに育つ立地条件が揃っているのです」

そう胸を張るこの地に3代続く桃農家を営む早川宏さんは24年前、40歳で脱サラして家業を継ぐべく就農。というと、意外に遅いスタートに聞こえるかもしれないが、子供の頃から桃の栽培を手伝い、「勤め人時代も早朝に収穫を終えてからの出勤がルーティンだった」と話す生粋の桃職人だ。

JAの大藤桃部会の部会長も務めるベテラン生産者の早川宏さん
JAの大藤桃部会の部会長も務めるベテラン生産者の早川宏さん。整枝剪定に必要な強い枝の見極め、正確な摘蕾・摘果など、大きな果実をたくさん育てるための技術と経験豊かなスペシャリスト。「いい果実は弱い枝になるんです。ほら、こんなふうなね」
収穫が終わった木の枝の間から、摘み残しの実がのぞく。収穫前にはびっしり、たわわに実がなり、重さで地面近くまで枝がしなるほど。
収穫が終わった木の枝の間から、摘み残しの実がのぞく。収穫前にはびっしり、たわわに実がなり、重さで地面近くまで枝がしなるほど。

現在は、「白鳳」「浅間白桃」「川中島白桃」などの主要7品種を含めて50本以上の果樹を管理しながらの桃づくりを、ほぼ夫婦2人で切り盛りしている。

「大藤ブランドの桃は別格」といわれる実力は、恵まれた気候条件ばかりでなく、“大藤流仕立て“と呼ばれる独自の栽培技術によるところが大きい。「桃栗3年」といわれるように、桃の木は通常は3年目から実がなり始めるが、大藤流仕立ての苗木は通常より生育スピードが早いのが特徴だ。

「3年生の若木のうちから安定的に収穫ができ、遅くても6年で成木になるように導く仕立て方です。桃は果樹の中でも若木の商品価値が高い傾向が強く、実際に老木になるほど実つきが悪くなって、大きさや甘味や色づきのレベルも落ちていきやすい。やっぱり若木の桃のほうが果肉にみずみずしい張りがあって、見た目もきれい。いわゆる『赤くて、まるくて、おいしそうに見える桃』の収穫率が格段に上がるのです(笑)」

大藤流仕立てを受け継ぐ早川さんの桃畑。通常、桃の木は15~20年サイクルで老木を伐根するが、大藤流では10年スパンで新苗に植え替えることが多い。
大藤流仕立てを受け継ぐ早川さんの桃畑。通常、桃の木は15~20年サイクルで老木を伐根するが、大藤流では10年スパンで新苗に植え替えることが多い。

主枝4本、弱剪定

大藤流仕立ての肝であり、腕の見せどころともいえるのが、桃の成長に大きく関係する苗木の剪定作業だ。一般的に桃の剪定は“開心自然形“と呼ばれる主枝2本での仕立てが主流だが、大藤流では4本を十文字に配置して仕立てる点に大きな特徴がある。
4本の主枝から生える短い枝を多めに残して剪定することで、果実がたわわに実り、初期収量を上げることが可能に。一方で、枝葉が不必要に育ちすぎないよう、剪定は弱めに行うことも重要なポイントのひとつだ。

樹齢10年近い大藤流仕立ての成木。根元付近から太い主枝が4本伸びているのが見える。
樹齢10年近い大藤流仕立ての成木。根元付近から太い主枝が4本伸びているのが見える。

2年生苗の若木でこのサイズ。種まきによる実生栽培で台木を育て、栽培する品種の芽接ぎを行う。
2年生苗の若木でこのサイズ。種まきによる実生栽培で台木を育て、栽培する品種の芽接ぎを行う。

「火山灰土壌は地力が強すぎるため、剪定を強くすると木が暴れ、枝葉は立派でも桃の仕上がりに悪い影響が出てしまう。もてる地力を利用し、かつ優良な大人の果樹に早く育てるための手立てとして、この地域で昭和30年代に開発され、50年近い年月をかけて確立させたのが“主枝4本““弱剪定“の仕立て法だったということです」


掌中の珠を慈しむ

桃の収穫は早朝4時半頃から。赤い色づきと適度な弾力が適期の目安だが、「日が昇る前は目視もままならないため、もっぱら指先センサーを頼りに。産毛が寝ているタイミングも採り頃のサインです」
桃の収穫は早朝4時半頃から。赤い色づきと適度な弾力が適期の目安だが、「日が昇る前は目視もままならないため、もっぱら指先センサーを頼りに。産毛が寝ているタイミングも採り頃のサインです」

高品質でならす大藤ブランドの中でも、早川さんが栽培する桃は品種の別を問わず、「とびきり甘い大玉」が多いという評判だ。果実の大きさにムラがなく、粒揃い。しかも1本の成木からの収穫数は約1000個。通常は500個が平均値というから、ほぼ倍のスケールである。

「これで6年生です」
そう言いながら早川さんが指し示したのは、収穫を終えたばかりの成木の1本。4本の太い主枝から伸びる無数の枝ぶりが、豊作の樹であることを物語る。枝葉の間に、中生種の大玉品種“なつっこ“の採り忘れの実が2個、3個。

坂倉さんの口から「本当に大きい!」と、感嘆の声が上がる。確かにビッグサイズで、丸々とふくよか。赤い色づきも豊かで、桃のお手本のような美しさだ。

「最も重要なのが丁寧な間引き作業です」と早川さん。春先の摘蕾で上向きの蕾を落とし、初夏の摘果でも摘み残しを再チェック。開花時期には、花粉がある品種であっても念入りに人工授粉をほどこし、強い枝には実を多く残し、弱い枝は多めに間引くなど、着果率を上げるためのきめ細やかなコントロールも。

「いっぺんに落とすと残った実が大きく育ちすぎて核割れを起こすので、3回に分けて摘果する手間をかけます。雨が降らない日が続けばスプリンクラーを回したり、木の根元に散水したり、土壌水分のこまめな調整も欠かせません」

文字どおりに掌中の珠を慈しむような細やかさ。ここまで手をかけても、気候変動や夏の猛暑で果肉に高温障害が出たり、収穫適期が短くなったり、豪雨で収穫前の実が落ちてしまったり。

「収穫が間に合わずに目の前でポトポト実が落ちるのを見るほど、農家として切ないことはありません。天候の影響を受けにくい品種の改良も進んでいますが、“夢桃香※”のように画期的なオリジナル品種が、早生種以外にもっと出てきてくれることを期待したいですね」

※夢桃香:山梨県オリジナル品種。6月下旬から7月上旬に成熟する早生品種でありながら、一定の硬さを保ち、柔らかくなりにくい特性を持つため、 高温の影響を受けにくく、優れた日持ち性を備える。


緻密な果肉、心地よい食感

収穫期たけなわの晩生種「川中島白桃」「ゆうぞら」「幸茜」を、早川さんが慣れた手つきで手早く切り分けていく。ここでも意外な驚きが待っていた。

「こっちの人は桃の皮はむかずに食べるんですよ」

そう教えられ、皮付きの実を頬張るそばから「え⁉ 硬い!」と目を丸くする坂倉さん。「川中島白桃」「ゆうぞら」「幸茜」は、いずれも果肉の締まりがよく、いわゆる“硬めの桃“に分類されるタイプ。完熟桃のジューシーな甘さはたっぷりありながら、さっくりと歯切れがよい。追熟で柔らかみは出てくるが、しっかりした食感が損なわれることはないという。

「品種違いの桃を一度に食べ比べたのは初めてですし、これほど種類があることも知りませんでした。白桃は柔らかくて水分が多い果物という概念があったので、このシャッキリした食感は衝撃の一言。桃を使うデザートの発想が、がらりと変わりそうです」

フルーツのデザートを創作するとき、坂倉さんは常に「いろいろな品種のよさを知ってもらうことを意識しながらレシピを考えている」と話す。今回の驚きの出会いは、どんな新しい形と味わいに昇華されていくのだろうか。期待がふくらむ。

早川さん自ら、正しい桃の切り方をレクチャー。縫合線に沿って一周、さらに最初の切り込みと直角に交わるようにもう一周、種まで刃を入れる。桃をねじると、4等分のカットも簡単、きれいに。皮はむかずに食べるのが地元流。
川中島白桃。“桃の王様“の異名をとる大玉品種。果皮は赤いが果肉は白く、甘味も抜群。収穫直後のパリッと硬質な歯ごたえは未体験ゾーンのおいしさ。
川中島白桃。“桃の王様“の異名をとる大玉品種。果皮は赤いが果肉は白く、甘味も抜群。収穫直後のパリッと硬質な歯ごたえは未体験ゾーンのおいしさ。
ゆうぞら。「白桃」と「あかつき」の交配品種。甘味に富み、酸味は控えめ。果汁が多く、種のまわりの果肉が真っ赤に色づくのが特徴。
ゆうぞら。「白桃」と「あかつき」の交配品種。甘味に富み、酸味は控えめ。果汁が多く、種のまわりの果肉が真っ赤に色づくのが特徴。
幸茜。山梨県で発見・育成された晩生種。硬めの食感を楽しむ桃の代表ともいえる、りんごを思わせるテクスチャーだが、追熟でもっちりなめらかな肉質に変化。
幸茜。山梨県で発見・育成された晩生種。硬めの食感を楽しむ桃の代表ともいえる、りんごを思わせるテクスチャーだが、追熟でもっちりなめらかな肉質に変化。
ネクタリン。早川さんの農園では黄肉系のネクタリンも栽培。白桃とは異なる濃密な甘酸っぱさが魅力。
ネクタリン。早川さんの農園では黄肉系のネクタリンも栽培。白桃とは異なる濃密な甘酸っぱさが魅力。
山梨県農政部の千野正章さん(左)、村松甲斐さん(右)も桃畑に。二人とも販売・輸出支援課の職員でありながら、桃やブドウや柿などの果物を育てる農家でもある。
山梨県農政部の千野正章さん(左)、村松甲斐さん(右)も桃畑に。二人とも販売・輸出支援課の職員でありながら、桃やブドウや柿などの果物を育てる農家でもある。

加熱で香らせる 桃(幸茜)のタルト/ジャスミンティー

産地訪問から10日後。待ちに待った新作お披露目の時がやってきた。

坂倉さんが考案したのは、農園直送の新鮮な“幸茜“を使った焼きタルトとコンポートの2品。タルトはテイクアウト、コンポートはアシェットデセールを想定したメニューだが、どちらも果肉を生ではなく、加熱して使っている点が共通している。

「自分にとっては例外的な白桃の使い方。ポイントは、やっぱり硬い桃ならではの食感ですね。特に“幸茜“は肉質がしっかりしていて、火を入れてもシャキシャキしてる。硬さゆえのおいしさや食感の心地よさを表現するためにも、加熱加工がベターだと思いました」

1作目のタルトは、薄くスライスした桃をタルト生地に敷いたスポンジに重ねて並べ、200℃のオーブンで12~13分ほど焼いたもの。タルト地には、切り残しの桃のコンフィチュールにジャスミンティーの茶葉を加えたジャムを塗っている。

幸茜のタルト。表面がほんのり色づく程度に焼き、ジャムをちょんちょんと散らして完成。生の果実にはない濃密な果実香がふわりと立ち上がる。
幸茜のタルト。表面がほんのり色づく程度に焼き、ジャムをちょんちょんと散らして完成。生の果実にはない濃密な果実香がふわりと立ち上がる。
カットしたての切り口の断面も、桃のシャキシャキ感をキープ。水分の多い桃だと、こうはならない。
カットしたての切り口の断面も、桃のシャキシャキ感をキープ。水分の多い桃だと、こうはならない。

熱が入ると果肉のピンク色のグラデーションに赤味が差し、名作の「アップルタルト」を彷彿させるシンプルな美しさにドキリとする。フードロス軽減を実践する坂倉さんにとっては、桃を皮ごと使える発見もうれしい驚きだったようだ。

焼きタルトに使う「幸茜」は、皮付きのまま1~2㎜幅に薄くスライス。
焼きタルトに使う「幸茜」は、皮付きのまま1~2㎜幅に薄くスライス。
スライスした桃にレモン汁を塗り、粉糖をふる。レモンの酸で果肉の赤味の発色が冴え、砂糖は桃のみずみずしさを表現するツヤ出しに一役。
スライスした桃にレモン汁を塗り、粉糖をふる。レモンの酸で果肉の赤味の発色が冴え、砂糖は桃のみずみずしさを表現するツヤ出しに一役。
4~5枚の桃はくるくると巻き、シグネチャーの「アップルタルト」でもおなじみのバラの花形に。硬さのある桃だからこそ可能なテクニックだが、レモン汁と加糖で出た水分で果肉が少ししんなりするため、成形は簡単。
タルト生地には、桃の果肉とレモン汁、砂糖でつくるコンフィチュールに、ジャスミンティーの茶葉の香りをしのばせたジャムを塗る。タルトで使った桃の切れ端を余さず利用。淡い薄紅色が目にも美しい。

「そもそも桃の皮をむかずに食べる発想がなかったのですが、農園で試食したときに果皮の下の果肉のおいしさにびっくりして。薄皮で歯触りが特に気にならないので、タルトの桃もコンポートも皮付きのまま使っています」


蒸して食感を残す 桃(幸茜)のコンポート/ローズマリー/ミルクジェラート

冷たく冷やしたコンポートは、ミルクジェラートとオリーブオイルを添えて華やかなグラスデザートに。エアリーなジェラートと、コンポートのさっくりした歯触りのコントラストが楽しい。

2作目のコンポートは、フルーツ全般の保存食作りに心得をもつパートナーシェフ、ガブリエレ・リヴァさんの発案から誕生したレシピ。皮ごとカットした桃をパウチしてスチームオーブンに入れ、100℃の低温でじっくり蒸し焼きに。鍋で煮詰めるコンポートでは果実の風味と旨味が逃げてしまいやすいが、桃の水分だけでミキュイのように火を通すことで、シャッキリと軽快な食感が生きる。

コンポートの桃も皮付きのまま使用。レモン汁と砂糖少々、フレッシュローズマリーとともにパウチで密閉し、スチームオーブンへ。生の果実のみずみずしさとシャキシャキ食感を生かせるよう、100℃前後の低温で40分、じっくりと熱を入れる。

今回使った“幸茜“については、「極力火を通さず、生の風味を失わせないように、スピード感をもって加工していく方法が向いている」というのが坂倉さん評だ。

「硬くても加熱で柔らかくなるタイプがあったり、酸味や糖度のバランスも品種によって違いがありそう。一つの素材をいろいろな構成で遊べる楽しさが桃にあるんだな、と。別の種類もいろいろ試してみたくなりました」

新たな名作誕生の予感に、ワクワクが止まらない。


◎LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura
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水曜休、火曜不定休
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