特別な道具もテクニックも不要「高加水ドデカフォカッチャ」
フェーズフリーな食材レシピ:小麦粉
2025.09.04

photographs by Atsushi Kondo
乾物や缶詰など常温で長期保存できる食材は、備蓄食品にも向く優れもの。普段の食事にも取り入れることで、「いざという時に賞味期限が切れていた」「食べ慣れない味で食が進まない」という問題も避けられます。「いつも」と「もしも」をつなぐフェーズフリー*な食材を、おいしく活用するレシピ。今回は、市販のパンが手に入らないときでも、自宅にある道具で簡単に作れるパンのレシピを教わります。初めてのパン作りにもおすすめです。
*フェーズフリー(Phase Free)は、防災の専門家として活動を続けてきた佐藤唯行氏が2014年に提唱した考え方。
目次
教えてくれた人:吉永麻衣子さん

パン講師。製パン専門学校講師やカフェキッチン勤務を経て、自宅でのパン教室「minna」をスタート。「忙しいママでも毎日焼けるパン」をコンセプトに、パン作りで当たり前だった工程を極限までそぎ落とした「おうちパン」を考案。2022年、全国の講師らと共に出張パン教室を行う「日々のパン」を立ち上げる。『パンどろぼうの世界一おいしいパンレシピ』は、2023年「料理レシピ本大賞」子どもの本部門受賞。他、著書多数。
https://hibinopan.jp/
パン作りを家庭料理の延長に
「自分でパンを焼く」ハードルは想像以上に高い。まず「計量、温度、時間は正確に」というストイックさ。「生地の発酵スピードに合わせる」不自由さ。「粉と水を合わせてこねる」「使った道具を洗う」面倒くささ。そして「オーブンがない」という致命傷・・・。
しかし、それらハードルを全部とっぱらっても「家族が喜ぶおいしいパンは焼ける」と、吉永麻衣子さん。パン作りで当たり前だった工程を極限までそぎ落とし、米を研ぐようにパンを焼くライフスタイルを広めている。
吉永さんのおうちパンレシピの要諦は、「生地を極力触らない」「冷蔵庫で発酵させる」ことにある。基本の「高加水ドデカフォカッチャ」でいえば、生地を混ぜるのも発酵も保存も一つ容器の中で。成形までは生地を移し替えることも、手で触ることもない。代わりに加える水の量を多くして(小麦粉に対し水分量83%以上)、冷蔵庫で低温長時間発酵させることで、こねではなく時間で生地をつなぐ。
冷蔵庫で発酵させるメリットは時間に拘束されない上、ゆっくり発酵が進むことで小麦粉のでんぷん質が糖化し、イーストの角がとれて味に丸みが出るという。1日1回スプーンで軽く混ぜて過発酵を防げば、5日間「作り置き」が可能だ。
「パンを焼こう」と思ったら冷蔵庫から取り出して容器を逆さまにし、自然と生地が落ちてきたら初めて手で触って三つ折りにする。この時、生地を触りすぎてしまったら、三つ折りにした状態で20分ほど常温におけば(いわゆる仕上げ発酵)OK。発酵した生地の気泡をなるべく潰さず焼くことで、芯まで火がよく通る。
「パンを家庭料理にしたいんですよね」と吉永さん。自分でパンを焼けることは、生きる自信につながる。
「高加水ドデカフォカッチャ」の材料と作り方
[材料](1個分)
塩・・・2g
インスタントドライイースト(赤サフ)・・・2g
水・・・ 150g
オリーブ油・・・ 適量
岩塩・・・ 適量
<材料と道具のポイント>
1.インスタントドライイーストとドライイーストは違います

どちらもスーパーに並ぶが、発酵力(加える量)が異なるので注意。吉永さんはサフ社の通称「赤サフ」を愛用。
2.保存容器は、900mlの直方体で底が広過ぎないものを

生地を後で三つ折りにするため。また、容器を逆さまにした時、生地の高さがあったほうが重みで容器から外れやすい。
[作り方]
[1]保存容器に粉等を入れる
![[1]保存容器に粉等を入れる](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_05.jpg)
保存容器に強力粉、塩、イーストを入れてひと混ぜし、水を8割加える。
[2]混ぜる
![[2]混ぜる](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_06.jpg)
スプーンでぐるぐるかき混ぜる。だんだん生地が重たくなってくる。
[3]残りの水を入れる
![[3]残りの水を入れる](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_07.jpg)
これ以上粉が水を吸わなくなったら、粉っぽいところにめがけて残りの水を入れる。
[4]混ぜる
![[4]混ぜる](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_08.jpg)
さらに粉気がなくなるまで混ぜる。容器の角に粉が残りやすいので重点的に。
[5]チェック
![[5]チェック](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_09.jpg)
粉が残っていないか、底からチェック。
[6]蓋をする
![[6]蓋をする](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_10.jpg)
表面を平らにならして蓋を閉める。この時点で生地は滑らかでなくてOK。【POINT】アレンジする場合は、ここで具材を加える
[7]発酵
![[7]発酵](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_11.jpg)
冷蔵庫で8時間以上置く。※1日1回以上、軽く混ぜれば5日間冷蔵庫で保存可能。
[8]生地を折りたたむ
![[8]生地を折りたたむ](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_12.jpg)
1日1回、スプーンを水につけて生地を四方から折りたたむように触ったら、表面を平らにならして冷蔵庫へ。
[9]成形
![[9]成形](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_13.jpg)
冷蔵庫から取り出した生地に打ち粉(強力粉、分量外)を振る。【POINT】生地の温度が上がると作業しにくいので直前まで冷蔵庫に。
[10]カードを挿入
![[10]カードを挿入](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_14.jpg)
容器の四方にカード(しゃもじや包丁でもOK)を差し込む。
[11]生地を取り出す
![[11]生地を取り出す](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_15.jpg)

シリコン加工のアルミホイルに容器を逆さまにして置き、生地が自然に落ちるのを待つ。
[12]三つ折りにする
![[12]三つ折りにする](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_17.jpg)
手に粉を少しつけ、生地の下に指を入れて持ち上げ、手前と奥から三つ折りにする。閉じた先が生地に被さるようにするときれいに焼き上がる。【POINT】ふっくら焼き上がるよう、生地にはなるべく触らない。
[13]軽く押さえる
![[13]軽く押さえる](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_18.jpg)
表面が平らになるようやさしく押さえる。【POINT】生地を触り過ぎたら、ここで20分ほど常温に置くとふんわり焼ける。
[14]オリーブ油と岩塩をかける
![[14]オリーブ油と岩塩をかける](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_19.jpg)
オリーブオイルをかけ、指で数カ所穴をあける。岩塩を振りかける。
[15]焼く
![[15]焼く](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_20.jpg)
オーブントースターで焼く場合:1200wで15分。表面に焼き色がついたら焦げないようアルミホイルを被せる。裏面にもしっかり焼き色がつけば完成。焼成後は網にのせ粗熱をしっかりとる。
フライパンで焼く場合:蓋をして強火で20秒温め、一旦火を止めて15分置く。その後弱火で10分、裏返してさらに13分蓋をして焼く。

表面はこんがり、中はふっくらと焼き上がっている。
展開例:災害時のパン

[材料](5個分)
強力粉・・・ 150g
砂糖・・・ 10g
塩・・・ 2g(3つまみ)
インスタントドライイースト・・・ 2g(3つまみ)
水・・・ 100ml
[作り方]
[1]ビニール袋に材料を入れる

ビニール袋に強力粉、塩、砂糖を入れて混ぜる。水にイーストを振り入れ、溶けて沈んだらビニール袋に加える。
[2]振って混ぜる
![[2]振って混ぜる](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_24.jpg)
空気を閉じ込めるようにビニール袋の口を結び、大きく振って生地がそぼろ状になるまで混ぜる。
[3]手で揉む
![[3]手で揉む](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_25.jpg)
さらによく振ってから生地を片端に寄せ、耳たぶの硬さになるまでポリ袋の上から揉む。空気を抜いてビニール袋の口をしっかり結ぶ。
[4]発酵
![[4]発酵](https://www.r-tsushin.com/wp-content/uploads/2025/09/phasefree_recipe_33_maiko_yoshinaga_26.jpg)
常温に置いて様子を見る(30℃で1時間程度)。倍の大きさになればOK。写真右が発酵前、左が発酵後。
[5]焼く
生地を切り分けてフッ素加工のフライパンに並べ、蓋をして弱火で片面7分ずつ焼く。トースターなら1200wで8分。魚焼きグリル(両面焼き)なら弱火で5分。
(雑誌『料理通信』2020年6月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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