HOME 〉

PEOPLE / 寄稿者連載

小さな豆腐を、多少気を遣いながら準備すると

長尾智子さんの「今日も台所」第8回

2026.10.16

連載:長尾智子さんの「今日も台所」

食に関わる仕事を始めた頃から、縁あって菜食に触れることが多かった。マクロビオティックを基本にしたイタリア系料理で、確か地中海式ダイエットというものも流行り始めていたような時期(多分)だったから、野菜とフルーツ、穀物を使っての会やら、ケータリングは新しかったと言えるかもしれない。


懐かしい菜食の風景

メニューを考えて、作るのは料理人。テーブル周りのデコレーションも面白かったが、いわゆる業界のセレブリティと呼ばれる人々、著名人が集まるようなパーティーも多く、野菜と穀類、無農薬、ヘルシー、ダイエットと連想が繋がるせいか、とても受けたと思う。

マクロビオティック他、穀物中心主義、一般的なベジタリアンの菜食主義、今ではヴィーガンが市民権を得て幅を利かせている?のかもしれないが、ローフードにグルテンフリーと、食の選択肢が多岐にわたるようになった現在とは違って、一般的にはまだ珍しい分野だったはず。

もともと器用なたちなので、下っ端ながら何でもやってしまうから、重宝に使われたかもしれない。パーティーの裏方は忙しいから、華やかな人たちの間を縫ってテーブルが散らかる前に多少でも整えたり、今日のテーブルクロスは深いブルーにして正解だったな、と遠目に眺めたり。懐かしい菜食の風景があるとしたら、そんなことかもしれない。

野菜と穀類、油はオリーブオイルのせいか、皆さんよく召し上がっていた。それを、食べ過ぎたら肉食と同じですよ?わかってるのかな?などとは言わずに、会場のあちこちに目をやりながら、生意気な下っ端は少し意地悪な目線で人間観察をしていた。

菜食と聞くだけでなんだか全て解決したような気分になるのは、わからなくもない。普段、別段飽食をしているわけでなくても、食べ過ぎていないかは、いつでも気になるものだから。時々プチファスティングをするのがいいらしい、というようなことと同じで、今日は野菜だけで心身ともにメンテナンス、という言葉の心地よさよ。

実際に経験するのなら、プチでない断食の方がどんなものかよく分かるし、野菜だけにするなら一食では何も変わらないだろうから、やるならある程度の計画をするのがいいと思うし、そのことによる体調?気分?感情?の変化はとても興味深い。

野菜の美しさが土台

若い時分の刷り込みもあったのか、おいしさもさることながら野菜の美しさに惹かれて、
菜食好きとしての本を何冊か作った。もう大分前のことだが、それらが土台のようになって、結局今でも野菜をどう食べるか?と第一に考える習慣がある。

私自身はベジタリアンではないがお肉はなくてもいい日が多い。食べたいと思う日に食べるのが肉食で、日々欠かさないのが野菜と乳製品(量は多くない)とお米。そして大豆製品だろうか。

豆腐は、日本人ならほとんど誰でも親しんできたもので、絹に木綿におぼろ、硬め柔らかめと選び放題。食べる習慣のない外国人に、味のない奇妙なものとされていたのも今は昔で、海苔(こちらはおむすびと共に認知されたのではないか)と同様に、いろいろな料理やお菓子に利用されつつある。

SNSのヴィーガンのアカウントで、溶かしたチョコレートと豆腐、ココナッツオイルだったかを合わせてミキサーにかけ、チョコレートムースを紹介していた。豆腐は豆腐、大豆の味、と思うが、そのうち試してみよう。昔経験した、豆腐クリームのデコレーションケーキのトラウマが消えないせいか、豆腐は大豆の味を生かしてこそ、白いからといってクリームの代役にはならないとどうしても思ってしまう。ここはひとつ、ムースを試してみなければ。


「水切り豆腐」を探究

食に関して思うことはいろいろあるが、結局どんな素材でも、個性を生かして風味を楽しんで食べるのが正解だ。豆腐を研究するつもりで、いつもと少し違う食べ方を試すのはお勧め。特に食感を変えると別物のように扱える。今回は、1日半ほど重石をして水気を抜いてみた。けっこうしっかりと硬めになって、中国料理の食材、「豆干絲」(豆腐干、干絲)とまではいかないが、包丁でも切り分けやすい。

エッジをシャープに切り分けられると、それだけで特別なものにも見えてくる。器にのせ、粗塩を少々、オリーブオイルをひとたらしで十分だが、加えてケイパーをのせて唐辛子粉を振るのはどうだろう。

素朴なカスエラに盛れば、タパスなのかと錯覚、チーズにも見えてきて、塗り物(漆のお椀の蓋)に盛るとすました和食的になるので、ケイパーは豆腐の周りに落ちないように集め、塩、唐辛子、オリーブオイルも豆腐の上に留めることにする。

次は、フライパンで焼いてみる。豆腐の両面に薄く小麦粉をつけ(側面は焼かないのでつけない)、多めの植物油(菜種油や太白ごま油)でしっかりと焼く。だんだんと、油揚げか厚揚げかという香りが立ってくる。こんがりと焼けたら器(白磁のケーキ皿)にのせ、ここでも粗塩とオリーブオイル、そしてレモン果汁を数滴、皮をすりおろす。点々と薄口醤油を落としてもいいし、レモンの皮まで食べてもいい。とても香ばしく歯ごたえもいいはず。

 

こんな風にして水気を抜いた豆腐を楽しむのも、少し時間のスピードを落として過ごすにはいい。自然とそうなるのも不思議なことだ。小さなものを、多少気を遣いながら準備する。お酒を飲みたくなる人もいると思うので、一口食べて飲むものを決めるというのはどうだろう。

ちなみに、ケイパーをのせてオリーブオイルが馴染むと、その二つと豆腐はすごく相性がいいと思う。大豆の甘さゆえなのか?私はおかずの一つとして食べてしまうが、どんなお酒が合うのか酒呑みに聞いてみたい。

切り落とした端っこは、レモン、オリーブオイル、塩、すりおろしたにんにくと合わせて瓶に詰めて、あと1、2回食べることに。ふとした思いつきで、一部を取り出してパプリカと赤唐辛子少々で和えてみた。何と一緒に食べるかはまた次回。菜食話は当分の間、続きそう。

今月のキッチンハック「畳んで重ねるキッチンペーパー」

エンボスの凸凹入りが、使いやすい


年々、キッチンペーパーが進化している気がする。随分と長いこと、料理というより台所仕事全般の助っ人というか、担い手として便利に使ってきた。

もちろん今もある基本のキッチンペーパーは、一度使って捨てるペーパータオルと言ったらいいのか?しっかり水気や汚れが拭き取れるものだが、その後欠かせないのは、繰り返し洗って使えるもの。かなりしっかりとした厚みと強度がある。以前はフラットなものを使っていたのだけれど、エンボスの凸凹があるものに変えたら、そちらの方が随分と使いやすく、以来同じものをずっと使っている。

普段の使い方は、まず素材の水気を切るのが最初の出番。さっと洗って水気を絞った後は、作業台やらシンク周りを、作業中に適当に拭く役目に移動。次にちょっとした油けを取るために使い、フライパンに残った油もそれで拭き取ってから洗う。そこまで使ってゴミ箱へ。

油以外、こびりついて落としにくいものなどがくっつかない限り、お湯で洗って絞って乾かしておく。乾いたら、4つ折りにして重ねる。何枚でも重ねておくと、すぐ手にとって役に立つから、些細なことではあるがおすすめなのだ。


長尾智子

長尾智子
料理家、フードコーディネーター。単行本の出版や雑誌の連載などの執筆、商品開発、メニュー提案などと並行してオリジナルの器〜SOUPsを主宰。料理とお酒について様々に実験中。 Instagram:@new__standards

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。