“冷たい犬”に“死んだおばあちゃん”――独特なネーミングの東ドイツ懐かしの味がカムバック!
Germany [Berlin]
2025.09.18

text by Hideko Kawachi
「カルター・フント(冷たい犬/Kalter Hund)」という名前の東ドイツ定番のおやつ。ココアパウダーとココナッツ油を混ぜたものとクッキーを重ねて冷やし、切り分ける。見た目が犬の鼻面に似ているのが名前の由来とか。簡単で日持ちがするからか旧東ドイツ地区だけでなく、最近は西側のカフェでも見かけるように。
このところ東ドイツ料理への注目度が高まっている。ベルリンの中心部を歩けば、いつも目に入るテレビ塔。1969年、旧東ベルリン時代に建てられたランドマークの展望レストランが、ミシュラン二ツ星を持つスターシェフ、ティム・ラウエを迎えて「スフェア・ティム・ラウエ(Sphere Tim Raue)」としてリニューアルオープン。メニューに東ドイツの料理をアレンジして取り入れたことも、話題を呼んでいる。
第二次世界大戦後、1949年から1990年までしか存在しなかったドイツ民主共和国(通称東ドイツ)。30年以上前になくなった国の料理は、多くのドイツ人にとっては未知の国の料理でもあるが、半数の人にとっては懐かしい思い出の料理でもある。レシピサイトなどでも特集が組まれたり、ベルリンでは数少ない東ドイツの料理を出す店を回るツアーもスタートしている。
代表的な東ドイツ料理を紹介しよう。ハムやベーコンの切れ端、キッチンにある野菜を刻んで煮込む甘酸っぱいスープ「ソリャンカ(Soljanka)」はピクルスの漬け汁が味のポイント。もともとはウクライナの家庭料理に端を発している。細切れ肉をホワイトソースで煮込み、グラタン風にした「ヴュルツフライシュ(Würzfleisch)」は、東側の居酒屋やカフェでは定番の気さくなメニューだ。
社食では、伝説の給食メニュー「トーテ・オーマ(死んだおばあちゃん/Tote Oma)」を出すところもあり、料理を知らない人たちをそのネーミングセンスで仰天させている。なんのことはない、粒々の穀物が入った血入りのソーセージを炒めて、ザワークラウトと茹でジャガイモを添えた一品だ。別名は“ウンファル(事故/Unfall)”というからひどい。



特にリバイバルの兆しが見られるのがスイーツだ。スフェア・ティム・ラウエでは、東ドイツの子供たちにとってはテレビ塔のカフェで食べることができる憧れのメニューだったというパフェ「シュヴェーデンアイスベッヒャー(スウェーデン風パフェ)」をイメージしたカップアイスを提供している。バニラアイスにリンゴジャム、卵リキュールと生クリームをかけたパフェは、エキゾチックな果物の輸入が難しかった東ドイツで、地元の素材で作った保存食をアレンジして生み出されたもの。伝説によれば、1952年の冬季オリンピックで、西ドイツを大差で下したスウェーデンチームを讃えてこの名前が付いたとも言われる。1970年代には、西ドイツのスパゲッティアイス(こちらはイタリア移民が工夫して生み出したとされるもの)に並ぶ、東ドイツの夏の名物だったのだ。新しいアイス店で、このパフェを出している店もちらほらある。
知らないけれどどこか懐かしい。東ドイツ料理の素朴な味は、多くの人の心を掴んでいるようだ。



◎Sphere Tim Raue
Alexanderplatz, Panoramastraße 1A, 10178 Berlin
9:00~23:00
無休
https://tv-turm.de/sphere-tim-raue/
*1ユーロ=172円(2025年9月時点)