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JOURNAL / 世界の食トレンド

貨物船をリノベーションした水上レストランで、廃棄物ゼロの厨房を目指す

England [London]

2025.09.16

貨物船をリノベーションした水上レストランで、廃棄物ゼロの厨房を目指す

text by Yuka Hasegawa
ロンドンに位置しながら、静けさと愛らしさを併せ持つカナルの景色が満喫できるキャビンの上階のダイニングルーム。オランダで船を購入してから、ロンドンに運ぶまでの航海中に見つけたというリーボード(帆船で使用される揚力翼)をアップサイクルした大型テーブルが圧巻だ。

かつてはうらびれた工業地域だった東ロンドン、ハックニー・ウィック。2012年のロンドン五輪以降は、クラフトビールの醸造所やゼロウェイストのレストランが次々オープン。加えて、古い倉庫や工場を再利用したスタジオやギャラリーに惹きつけられた新進アーティストが移り住むなど、今やロンドンのトレンドの発信地だ。また、スタイリッシュでカラフルな装飾が施されたナローボートが停泊する、情緒あるカナル(運河)が広がるスポットとしても知られている。

この水辺で一際目を引くのが、オランダで1906年に建造された小型の貨物船をリノベーションした水上レストラン「バージ・イースト(Barge East)」だ。船内のダイニングスペース以外にも、緑の大きなパラソルが印象的な解放感あふれるテラス席、オーガニックガーデン内に設置されたカフェを併設。年間を通して、アートやヨガのワークショップ、DJのセッションなどのミュージック・プログラム、近隣の幼稚園や小学校と提携した子ども向けのイベントなどをラインアップし、コミュニティのハブ的存在としても大きな注目を浴びている。

De Hoop号
2012年のロンドン五輪で再開発された、クイーン・エリザベス・オリンピックパークを臨むカナルに停泊する「De Hoop号」が、バージ・イーストの本拠地。水辺を生かしたベンチャービジネスに精通したスチュワート・トムソン氏と、長年の友達ロブ・ブランド氏、シェフのライアン・クレイグ氏の3人によって2018年に開業以来、様々なレストラン賞を獲得している。

「解体寸前のこの貨物船をネットで見つけ、自らオランダに赴いて購入し、ロンドンまで総力を上げて海を渡ってきました。それはそれは過酷な航海でしたが・・・(笑)」と語るのは、ファウンダーの1人である、スチュワート・トムソン氏。その後約半年かけて、廃材やリサイクル素材などを使い船室やデッキを大改装。2018年6月の開業とともに、バージ・イーストは、東ロンドンのクリエイティブな若者たちの心を瞬く間にとらえた。カジュアルなファインダイニングを提供する船内のスペースに加え、その後ストリートフード中心のテラス席も拡充し人気を博している。

ダイニングスペース
建造から120年以上とはいえ、キャビンの雰囲気を色濃く残しながら丁寧にリノベーションされた独特の雰囲気を持った下階のダイニングスペース。ヴィンテージのストーブも設置され、冬でも快適な時間が過ごせる。船のオリジナルの錨のチェーンをあしらった、入り口の階段も趣がある。

インドアでの営業が制限された2020年のパンデミック時には、テラスの隣にオーガニックガーデンを造園した。
「50種類以上の野菜やフルーツ、ハーブを植栽し、その中にカフェもオープンしました。そこで栽培したズッキーニは仔羊の皿の付け合わせに、ルバーブやプラムはジャムにしてデザートやカクテルに、各種ハーブはオイルに漬けたり、料理の仕上げに使っています」
ガーデンではホップも栽培し、収穫後は近所のクラフトビール醸造所に電動カーゴバイクで運べば、その後ビールになって店に戻ってくるという。

アウトドア・ダイニング
ダリアやバラ、ひまわりなど、季節の花々が咲き誇る中、気持ちのいいアウトドア・ダイニングが楽しめるオーガニックガーデン内のカフェ。リンゴや洋ナシ、プラムの木から、ズッキーニやカーボロネロ、ラディッシュなどの野菜、ナスタチウムや様々なハーブなど、ガーデン内で栽培されたものはキッチンで使用される。

キッチンでは出来る限り地元の生産者から食材を仕入れ、廃棄物ゼロの厨房を目指すなど、50近いサステナブルなアクションプランを標榜する。
「昨今のお客様は、社会的に責任を果たしている店で食事をしたいと考えています。エコシステムを構築するのは、決して安上がりとは言えませんが、ファン(楽しい)・チャレンジです」

過去の料理
過去の料理から。(写真上から時計回りに)ラムのカルパッチョ、「コーンウォール産のサバのセビーチェ風」、中東の伝統的な焼きナス料理「ババガヌーシュ」をカブでアレンジした皿など、メニューには英国産の食材を駆使したオリジナル料理が揃う。トッピングには併設のオーガニックガーデンで採れた、ラズベリー、ハーブ、食用花などが使われている。

次のチャプターは、オーガニックガーデンの奥に、ヴィンヤード(ワイン用のブドウ畑)を造設したいとのこと。さらに進化し続ける、ハックニー・ウィックのカナル沿いに、今後も目が離せない。

ヨーロッパへダイ(鯛)のクルード
ヨーロッパへダイ(鯛)のクルード。セビーチェのような一皿で、ゼロウェイストキッチンを目指すスタンスから、厨房で出た魚の端材を使ったタイガーミルク(セビーチェを作る際に出るだし汁)とともに供する。オーガニックガーデンから採れた様々なハーブを漬け込んだグリーン・オイル、ブロンズフェネルを添えて。
イースタン・サワー
バージ・イーストのシグネチャーカクテルの一つ、「イースタン・サワー」は、地元のアルチザン蒸溜所のウォッカベースのカクテル。オーガニックガーデンで採れたルバーブをちょっとスパイシーなジャムにして使い、ガーニッシュには自家製のミントオイルを垂らして。

Barge East
www.bargeeast.com/

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