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JOURNAL / 世界の食トレンド

サステナブルな農業を支える高付加価値作物、米国産サフランに注目!

America [Vermont]

2025.06.19

サステナブルな農業を支える高付加価値作物、米国産サフランに注目!

text by Kuniko Yasutake
鮮やかな色味と、深みのある芳香が独特なスパイスとして、パエリヤやブイヤベース、中東/南アジア料理やデザートの材料となるサフラン。繊維や化粧品の染料、心身のウェルネス効果が期待できる生薬としても利用されており、汎用性が高いことも特徴だ。世界シェアの9割を占めるイランに続き、インド、アフガニスタンが主な原産国で、上質なものは小売値グラム当たり約15~20ドルで取引されている。近年の気候変動による生産量ダウンや、2025年の合衆国政府による輸入品関税率引き上げ等が原因で、今後さらなる価格高騰の予測も。photograph by Carbonate Media

稀少価値が高いことから“赤い金 (red gold)”と呼ばれるサフランの需要が、2018年から着実に伸び続けている米国。これは、アパラチア山脈の北端が縦断するバーモント州で、無農薬露地栽培のサフラン生産に取り組んでいる「カラバシュ・ガーデンズ(Calabash Gardens)」の発展の軌跡に呼応しているかのようだ。

共同経営者の2人は元々映像作品制作や陶芸に携わるアーティストだったが、農業に根差した生活にも興味を持っていた。2017年にバーモント大学主催の北米サフラン・プロジェクトを知ったことをきっかけに一念発起し、2018年に農地を購入、2000個の球茎(地表に茎をもたない秋咲きクロッカスの球根)でテスト栽培を開始する。暖冬による凍結融解害(地表を保温する雪が春を待たずに融解し、凍結、積雪、再融解を繰り返し、新芽が傷む)で花が咲かないシーズンが2年続いた時は涙を飲んだが、球茎を順調に増やすこと(分球)に成功し、7年間でその数500万個に。路地植え作付面積2エーカー(約8000m2)は米国最大だ。

クローデル・ザカ・シェリー氏(左)とジェタ・マンデル‐エイブラムソン氏
ハイチ出身のクローデル・ザカ・シェリー氏(左)と、ニューハンプシャー州出身のジェタ・マンデル‐エイブラムソン氏は、農園のみならず人生の共同パートナーでもある。農園の名前の由来となった「カラバシュ」は瓢箪のような実をつける木のことで、ハイチ・クレオール文化では命を創造する聖なる樹という意味合いを持つ。2歳になる娘と共に歩みを進めることによって、サフラン生産者として“生きる道”を忍耐強くクリエイティブに創造している最中だ。photograph by Oliver Parini

カラバシュ・ガーデンズのサフランの売り上げは、スパイス業者や醸造所などへの卸売が50%、地元ファーマーズマーケットや自社オンラインショップを介した小売りが50%と半々だ。今のところ、調理用の乾燥サフランより、サフラン抽出液を使用した加工商品に人気が集まっている。

この他にもトウガラシやハーブの栽培、ウサギやニワトリなどの小動物の飼育も行っており、人間が必要なものを自然から取り上げるだけでなく、土壌や環境の再生を促すリジェネラティブ農業に力を入れている。

「(自然が相手の農業は)期待を裏切られることが多々あるから、将来心が折れないように目標や希望を言語化したくない」という2人。でも、米国農務省からの有機認証の取得、球茎の販売、国産ならではの新鮮な自社サフランをボストンやニューヨークのレストランへ卸す販売戦略など、今後のゴールを語る声は明るく朗らかだ。

クロッカスの写真
秋咲きのクロッカス (Crocus sativus) の赤いめしべを乾燥させたものが香辛料サフランとなる。ひとつの花から採れるめしべは3本で、1g(めしべ450~500本相当)のサフランを生産するには150~170輪の花が必要だ。基本的な土質や気候環境が合いさえすれば、特別な化学肥料や農薬散布、灌漑設置をせずとも育つことから、ニューイングランド地方に多い小規模農家の収入源の多様化とサステナブルな経営を支えるにはもってこい、とバーモント大学が着目。全米初のサフラン研究機関 (North American Center for Saffron Research & Development)を2015年に立ち上げ、高付加価値間作/追加作物として紹介すべく試験栽培をスタートさせた。2025年6月現在、サフラン生産の取り組みは東部、西部、南部の7つの州に拡がっている。Photograph by Jette Mandl-Abramson
クロッカスの赤いめしべを手作業で取る
サフランの高い品質を約束するには、秋咲きクロッカスが開花直前、つまり日の出の前に摘まなくてはならない。気象状況と開花のタイミングを見計らって、人手の確保をせねばならないこともサフラン生産の難しいところ。北海道網走市と同じ北緯にあるこの農園では、寒さが増してくる10~11月が収穫時期。摘花からめしべの収穫・加工まで手作業を要することも、サフランが高価な理由のひとつだ。photograph by Oliver Parini
ザ・カラバシュ・エクスペリエンスの様子
2024年からシリーズ化し人気を博している「ザ・カラバシュ・エクスペリエンス(The Calabash Experience)」とは、サフランと旬の食材をフィーチャーしたコースメニューを、バーモントの山々やサフラン畑を眺めつつ楽しめるアウトドア・ダイニング・イベント。一般的なアメリカ人家庭の食卓では、まだ馴染みが薄いサフランの認知度アップを図る。外食産業でも勤務経験のあるオーナーが、知人の多様なローカルシェフ達に声をかけて実現させた。2025年も春から秋にかけ、限定メニュー発表と共に随時自社サイトにて予約を受け付ける。photograph by Calabash Gardens

Calabash Gardens
1831 Fish Pond Rd.
Wells River, VT 05081
サフラン 45ドル/0.5g
https://www.calabashgardens.com/

*1ドル=143円(2025年6月時点)

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