ベトナムのガストロノミー界に新風を起こすミシュランスターチーム
Vietnam [Ho Chi Minh City]
2025.08.21

text by Rie Suzuki
ホーチミンに2024年にオープンした「シエル」。「私たちが大切にしているのは、温かみ、人間味があり、心の底からパーソナルな空間を作り出すこと。お客様一人ひとりに“自分は大切にされている”と感じていただくこと。それは、静かな会話、テーブル上の心温まる装飾、料理のプレゼンテーションなど、様々な形で表現されています」と話す、ジェネラル・マネージャーのマイ・タン・リエム氏(右端)。
2025年6月、『ミシュランガイド2025』ベトナム版が刊行され、ハノイ、ダナン、ホーチミンにおいて、63軒のビブ・グルマン、9軒の一ツ星レストランが発表された。ミシュランは、「ベトナム料理の多様性、創造性、品質の向上を反映した結果」と評した。
最も注目されるのは、ホーチミンに2024年開店したばかりの「シエル(CieL)」。エグゼクティブ・シェフのレ・ベト・ホン(Lê Việt Hồng)氏と、ジェネラル・マネージャーのマイ・タン・リエム(Mai Thanh Liêm)氏が共同でオープンした。

ホン氏は、コペンハーゲン「ノーマ(noma)」、東京「セザン(SÉZANNE)」、バルセロナ「ディスフルタール(Disfrutar)」など、世界の三ツ星レストランで経験を重ねてきた。旅を通して最も印象に残った澄み渡るパリの空とテロワールを、自身の店に描きたいと、“シエル(フランス語で空)”を店名にした。
料理はフレンチの技法を用いて、東西の文化を皿の上で表現する。
食材はアジア人シェフとしてのアイデンティティを大切に、ベトナム北部ホアビン省にある自身の農園で収穫した野菜や、国内で出会った生産者が丹精込めて作る食材を使用。たとえば鴨は、オランダでサステナブル農業を学んだベトナム人が半野生環境で飼育しているものだ。広東料理の珍味として重宝されるフィッシュマウ(魚の浮袋)はカスタードクリームと合わせ、甘くとろける食感は、まるでデザートの一品のよう。




メニューはテイステイングメニュー(アミューズ、プティフールを含め全11皿、305万ベトナムドン)のみ。ワインペアリング(170万ベトナムドン)も楽しめる。
店は慌ただしい街の中心から少し離れた外国人の多く住む瀟洒なエリア、タオディエンに構えた一軒家。更地の状態から2人が構想を重ねながら仕上げていったという。店内の大きな窓ガラスから見える豊かな南国の草木はインテリアのようだ。

「将来の夢は、シエルの料理に関わる人びと、食材の産地、そして店を訪れるすべてのお客様の幸せを願う、思いやりのあるレストランを作ること」と話すホン氏。
「ベトナムの次世代のシェフたちが成長できるよう、この店で次世代の育成と支援に力を注ぎたい」と続けた。


◎CieL
6/3 street no.50, Thao Dien ward, Thu Duc city, HCMC
17:30(サービス開始は18:30)~23:00(最終入店20:30)
https://cieldining.com/
*1ドン=0.0056円(2025年8月時点)