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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

サーキュラーエコノミー時代のパッケージのあり方を提案

包装技術コンサルタント 内村元一

2024.10.03

text by Sawako Kimijima / photographs by Shinya Morimoto

text by Sawako Kimijima / photographs by Shinya Morimoto

最近、「良い食材を選ぶ以上に、良い“包材”の選定に頭を悩ませる」という話を聞きます。脱プラや脱炭素が叫ばれるようになって、環境に負荷をかけないことと食品の風味や衛生の保持との両立に苦労があるのでしょう。そんな悩みに応えるのが、「パックエール」の内村元一さんです。包装技術を専門として25年の経験とネットワークを武器に、サーキュラーエコノミー時代のパッケージのあり方を提案しています。

目次







内村 元一(うちむら・げんいち)

1976年生まれ。成蹊大学工学部卒業後、1999年より「凸版印刷」にて軟包装(紙やプラスチックフィルム、アルミ箔など柔らかく軽い包装)の製造技術に携わる。05年からは大手CVS商品向けの容器・包装資材を供給する「ベンダーサービス」で弁当類容器の研究・開発・設計を担当。14年からは「大正製薬」の容器・包装の開設・設計を、16年からは「日本製紙」にて環境対応に適合した新素材の拡販および技術開発を担当。23年「パックエール」を創業。包装技術コンサルタントとして、企業の環境対応事業のサポート、講演会や勉強会、研修、論文寄稿などを行なう。


パッケージ市場の7割弱が食品の包装

街のお菓子屋さんの話から始めよう。
埼玉県の南浦和と志木に、「おやつがある日はちょっと嬉しい」をキャッチフレーズに焼きっ放しのマドレーヌやフィナンシェといった素朴な焼き菓子を並べる店がある。
「おやつ屋さんだから」と、2017年開業当初は既製のクラフト紙の袋など最小限の包材でまかなっていた。次第に「ギフトに使いたい」との声が増え、包装のバリエーションも増えていった。

過剰な包装は避けたい。包材代を価格に転嫁したくない。だから必要以上の費用はかけたくない。小ロット対応の業者と付き合いたい・・・。経営にも環境にも負荷をかけまいと手を尽くすと、製菓材料店、ラッピングペーパー専門店、梱包材卸し、印刷所、缶メーカー・・・と取引先は拡大。包材手配の手間がハンパないという。
おいしいお菓子を作るのと同じくらい、おいしい状態で食べてもらうための包装の努力が必要な実態がある。

南浦和と志木に店を持つ「プティ・クレール」のパッケージ。中身はレーズンサンド、レモンケーキ、クッキーなどの焼き菓子。「サービス箱+掛け紙」でギフト対応したり、長方形箱(下段中央)を2~3箱重ねて帯を掛けて大箱代わりにするなど、フレキシブルでお財布にも環境にも負荷をかけない工夫が随所に見られる。
南浦和と志木に店を持つ「プティ・クレール」のパッケージ。中身はレーズンサンド、レモンケーキ、クッキーなどの焼き菓子。「サービス箱+掛け紙」でギフト対応したり、長方形箱(下段中央)を2~3箱重ねて帯を掛けて大箱代わりにするなど、フレキシブルでお財布にも環境にも負荷をかけない工夫が随所に見られる。
クッキー缶は『婦人画報』のお取り寄せサイトでも人気(中身は異なります)。缶のサイズにカットしたシートドライヤー(乾燥剤)とクッションペーパーを敷き、クッキーを詰め、缶の蓋をした後に掛け紙を巻く・・・と補助的な包材も多い。
クッキー缶は『婦人画報』のお取り寄せサイトでも人気(中身は異なります)。缶のサイズにカットしたシートドライヤー(乾燥剤)とクッションペーパーを敷き、クッキーを詰め、缶の蓋をした後に掛け紙を巻く・・・と補助的な包材も多い。

食とパッケージがいかに切り離せないか。
内村元一さんは「パッケージ市場の7割弱は食品」という数字を挙げる。近所の豆腐屋へ鍋を持って買いに行った時代は遥か昔。流通が前提の現代社会において、生もので食べ手の生命に関わる食品の包装は重要度が高い。脱プラや脱炭素が掲げられる昨今、難易度も増すばかりである。

*「2021年度版パッケージ印刷市場の展望と戦略」(矢野経済研究所)より、需要分野別の構成比(2019年/金額)において食品が66.4%を占める。

内村さんは企業のサポート業務の一環としてセミナーを実施。包装技術の最新情報や環境対応が進む世界のパッケージ動向などを伝えている。写真は、東京・清澄白河にある「ジオパック」での社員研修セミナーの様子。
内村さんは企業のサポート業務の一環としてセミナーを実施。包装技術の最新情報や環境対応が進む世界のパッケージ動向などを伝えている。写真は、東京・清澄白河にある「ジオパック」での社員研修セミナーの様子。
ジオパックは1967年創業の包装資材の専門メーカー。紙を用いた包材を得意とする。時代に合わせた性能と機能を追求しながら、新しいパッケージの提案に力を入れる。
ジオパックは1967年創業の包装資材の専門メーカー。紙を用いた包材を得意とする。時代に合わせた性能と機能を追求しながら、新しいパッケージの提案に力を入れる。

「紙を利用すれば環境に優しい」ワケではない

「世界のトレンドから見れば、日本のパッケージの現状は遅れています」と内村さんの指摘は厳しい。
「世界は、3R――Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)――を確実に進めている。“廃棄物は資源”との考え方が浸透しています」
対して、日本はどう遅れているのか? ポイントを挙げてもらったのが以下の3点だ。

(1)紙を利用すれば環境に優しいと思いがち
(2)使い捨ての包材が多い
(3)リサイクルのマークが「リサイクル可能」を示すものではない

ここで、パッケージの機能をおさらいしておきたい。内村さんが挙げるのは、【保護性】【利便性】【情報伝達性】の3点だ。具体的には、

【保護性】空気、光、水分、湿気などを遮断して、食品の酸化や劣化を防ぐ。菌の繁殖を抑える。風味や食感を保つ。形状を保持し、破損を避ける、など。
【利便性】水や酒などの液体を運搬可能にする。開封口にチャックを付ければ保存利用に便利、など。
【情報伝達性】製造者・原材料・添加物・賞味期限などの表示や商品特性、作り手の思いを伝えてくれる。

これらの機能を踏まえて、世界のスタンダードを見ていこう。

マルチマテリアル(複合素材)よりモノマテリアル(単一素材)

「日本製紙在籍中、多くの企業からパッケージを紙に替えたいという相談が持ち込まれました」と内村さん。
きっかけは、世界的な脱プラスチック動向である。

2016年、ダボス会議で海洋プラスチックごみがクローズアップされたことから、脱プラスチックはグローバルな社会課題となった。前年の2015年にナショナルジオグラフィックがネットに上げていたウミガメの動画が拍車をかけた。米テキサスA&M大学の調査チームが、ウミガメの鼻の奥まで入り込んだプラスチックストローを取り出す様子で、見ているこちらの身体まで痛くなるような映像だ。そこで進行したのが、プラスチックから紙への転換、紙化だった。

しかし、前述のパッケージの機能を果たす上で、「プラスチックが有効であることは否定しようがない」と内村さんは言う。熱可塑性(かそせい)があるため、自由自在に形をつくれる。PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)など種類が多く、求める機能に合わせて使い分けられる。強くて丈夫・・・。一方、通気性があって、防湿性がなくて、熱可塑性もない紙は、十分に役割を果たせない。そこで、紙に薄いアルミを貼る、フィルムを貼合するといった方法がとられることになる。マルチマテリアル(複合素材)である。

「ストローの紙化が進んだのはウミガメの動画の影響もあるのでは」と内村さん。料理のテイクアウト容器は一見紙製でも内側にプラスチックを貼ってあるケースが多い。コーヒーカップは本体だけでなく蓋も紙もしくは生分解性プラスチックになってきた。
「ストローの紙化が進んだのはウミガメの動画の影響もあるのでは」と内村さん。料理のテイクアウト容器は一見紙製でも内側にプラスチックを貼ってあるケースが多い。コーヒーカップは本体だけでなく蓋も紙、もしくは生分解性プラスチックになってきた。

「マルチマテリアルだと、リサイクルがむずかしくなるんです。リサイクルしやすさの基本は、紙は紙、プラスチックはプラスチック、モノマテリアル(単一素材)であること」
たとえば、紙の場合、再生できるのはパルプ95%以上がベストで、85%以下になるとむずかしいとされる。もちろん、紙+プラスチックの複合素材にも、石油由来の素材を低減するという意味はある。しかし、紙とプラスチックに適切に分離させない限り、リサイクルがむずかしい。燃えるごみになる運命だ。

地球環境の再生を掲げるパタゴニア プロビジョンズはパッケージにも配慮。今秋新発売のパスタの包装は、外箱には100%再生繊維を使用してリサイクル可能、内袋なし、フィルム窓不使用と徹底している。photo by Amy Kumler©2024Patagonia,Inc.
地球環境の再生を掲げるパタゴニア プロビジョンズはパッケージにも配慮。今秋新発売のパスタの包装は、外箱には100%再生繊維を使用してリサイクル可能、内袋なし、フィルム窓不使用と徹底している。photo by Amy Kumler©2024Patagonia,Inc.

「“燃えるごみ”というのがまた問題」と内村さん。「他国と比べて、日本はごみを焼却処理に依存してきました」
日本人は燃えるごみに対してポジティブなイメージを持っている。しかし、焼却時にCO2が排出されるため、世界的にはネガティブ。また、日本では焼却時に発生する熱の利用をサーマルリサイクルと捉えるが、世界的には認められていない。何より資源として使える物まで燃やしてしまうことになり、リサイクルの観点から燃えるごみは評価されない。
「燃えるごみから資源を救い出す必要があるわけです」

実は内村さんと同じ課題感を抱える自治体は少なくなくて、ごみ袋の名称に表れている。2021年から、福岡県柳川市が「可燃ごみ」の回収袋を「燃やすしかないごみ」に変えて話題になった。23年からは徳島県徳島市、京都府亀岡市、24年には茨城県つくばみらい市、取手市、栃木県小山市などが「燃やすしかないごみ」に切り替えている。「燃やすしかない」という表現に「燃やさないで済む方法を考えよう」というメッセージがこもる。


プラスチックを“使い捨てない”

「日本人はきれい好きという国民性もあって、使い捨てる傾向が強い」と内村さんは指摘する。たとえば、プラスチック容器包装の一人当たりの廃棄量の国別比較では、日本は世界2位(年間約32kg)という不名誉な順位。ちなみに1位はアメリカ。「日本国内で生産されるプラスチックのうち、使い捨て利用が想定される割合が、世界では36%なのに対して、日本は6割超」。使い捨て前提の感覚が見え隠れする。

プラスチックごみ問題は内村さんのセミナーでも触れる。年間800万トンのプラスチックごみが世界の海に流入しており、ジェット機にして5万機、スカイツリーで換算すると222基に相当すると言われる。
プラスチックごみ問題は内村さんのセミナーでも触れる。年間800万トンのプラスチックごみが世界の海に流入しており、ジェット機にして5万機、スカイツリーで換算すると222基に相当すると言われる。

「脱プラスチックが叫ばれますが、それと同度に使い捨て習慣を変えていく必要があります」と内村さん。脱プラはもちろん大切だが、プラスチックのリサイクルはすでに実装されているものも多い。「“地上循環型資源”の考え方を浸透させることが大切だと思います」。

プラスチックのリサイクルを進める企業の取り組みがもっと認知されてもいいかもしれない。
サントリーは「ボトルtoボトル」と銘打ち、飲料ペットボトルの水平リサイクル(使用済み容器・包装を材料として、再び同じ種類の容器・包装を製造する)を推進。23年時点で、ペットボトルにおけるリサイクル素材、および植物由来素材の使用率は53%に達している。24年6月には、キューピーと味の素が、使用済みマヨネーズ容器の水平リサイクルの仕組みづくりに共同で取り組むと発表した。


パッケージには“リサイクルの手引き”が世界基準

「消費者のためのマーク表示が不十分な点も改善すべき」と内村さんは指摘する。
食品表示の一角に、「紙」「プラ」の文字のマークが入っているのは日常的に目にしているだろう。「消費者がごみを出す時の分別を容易にし、市町村の分別収集を促進する」ためのマークとされるが、厳密には少し違う。

「重量比で51%以上の材料がそのマークの対象になるという規定です。たとえば、紙51%+プラスチック49%の複合素材の場合、紙マークを付けることになります。しかし、前述のように、複合素材はリサイクルを困難にします。つまり、消費者に使用後の処理の仕方を正確に伝えるマークではないということです」

海外では“On-Pack Labelling”と言って、アメリカの“How2Recycle”など、商品のパッケージにリサイクルの手引きを付けることが浸透しているという。

青箱はドイツの店頭に並ぶ商品パッケージ。ユニバーサルリサイクルシンボルが表示されている。左端のマークは「メビウスループ」と呼ばれ、製品又は包装が「リサイクル可能」及び「リサイクル材料含有率」の表示に限り使用が認められる。メビウスループのみの場合はマテリアルリサイクル(単一素材リサイクル)を意味する。
青箱はドイツの店頭に並ぶ商品パッケージ。ユニバーサルリサイクルシンボルが表示されている。左端のマークは「メビウスループ」と呼ばれ、製品又は包装が「リサイクル可能」及び「リサイクル材料含有率」の表示に限り使用が認められる。メビウスループのみの場合はマテリアルリサイクル(単一素材リサイクル)を意味する。

リサイクルできないパッケージは商機を逃がす

「静脈物流」「動脈物流」という言葉を聞いたことはあるだろうか? 前者は消費者から生産者に流れる物流、後者は生産者から消費者に流れる物流のこと。消費者から回収された使用済み製品が、リサイクル工場を経由してメーカーへと戻っていく静脈物流こそが、これからの時代に重要とされる。

「静脈物流と動脈物流がつながって初めて循環型経済社会、すなわちサーキュラーエコノミーは実現する」と内村さんは語る。「静脈は動脈のためにいかに分別と洗浄を徹底して渡すか、動脈は静脈のために分別と洗浄が可能なものづくりをするか。互いが機能しやすくなる連携が求められている」

内村さんが独立した目的もそこにある。「静脈と動脈が連携するということは、企業や業界の境界を超えて手を取り合うこと」。
社員の立場では、所属する会社の利益を優先させねばならないため、領域が限られがちだ。日本製紙であれば、当然ながら紙を追求することになる。しかし、企業や業界の枠組みを超えて素材や製法を広く探らなければ、静脈と動脈に同じ血液は流れないだろう。境界なく企業や技術を結び付ける仕事をしたい。それが独立の動機だった。

「環境に優しいと言いつつ循環しない包材が増えることがストレスでした」。そのストレスは、当然、社会にとってもストレスのはず。それを解消すべく、内村さんは邁進する。
世界基準の意識と知識をメーカーにも消費者にも持ってほしいと、セミナーやシンポジウムに精力的に登壇する一方、フェリス女学院大学や独協大学など教育機関でも講座を持つ。

コンサルティング契約企業には環境情報トピックス「ニュースのミカタ」を配信。容器・包装に関する最新情報、今後の動向や社会への影響を伝えている。
コンサルティング契約企業には環境情報トピックス「ニュースのミカタ」を配信。容器・包装に関する最新情報、今後の動向や社会への影響を伝えている。
内村さんがサポートするジオパックは、清澄白河というカフェやロースタリーが多い街の特性に合わせてコーヒー袋を開発。レターパックで送れるようにマチを薄くする工夫も。回収・再生の仕組みづくりにも取り組む。
内村さんがサポートするジオパックは、清澄白河というカフェやロースタリーが多い街の特性に合わせてコーヒー袋を開発。レターパックで送れるようにマチを薄くする工夫も。回収・再生の仕組みづくりにも取り組む。

「リサイクルできないパッケージは欧州では使われない」と内村さん。
和食や日本の食材に熱い視線が注がれる今、海外輸出のビジネスチャンスが期待されるが、パッケージが海外の基準を満たさなければ現地で流通できない。
食品のクオリティ同様に、パッケージにも最大限の配慮が求められるのは、街のお菓子屋さんもグローバル企業も同じ。そして消費者も共に向き合うべき時代の要請である。


パックエール
https://www.pack-yell.com/

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