種子島の大地が教える、豊かさとは。砂糖のプロが造る搾りたてサトウキビのラム酒
2025.06.18

透明感のあるコク、奥行きのある香り、果実のようにフレッシュで濁りのないミネラル感・・・、そう聞いてサトウキビにイメージを重ねる人は少ないだろう。だが、そんな言葉で語られる砂糖作りを目指すのが、千葉の製糖会社・大東製糖である。
2024年5月、同社が種子島の自社畑から収穫した搾りたてのサトウキビ汁から造ったラム酒「ARCABUZ(アーキバス)」が、世界の酒類(スピリッツ・ワイン・ビール・ラムなど)を評価する国際的な賞「WORLD DRINKS AWARDS 2024」の「WORLD RUM AWARDS 2024」カテゴリー、アグリコール製法のテイスト部門で金賞を受賞した。日本初の快挙である。
(TOP画像)ボトルのモチーフは種子島と縁の深い火縄銃の砲身。世界的デザイナー、KEN OKUYAMA(奥山 清行)氏がデザイン。アーキバスはポルトガル語で火縄銃を意味する。2025年には「International Wine & Spirits Competition(IWSC)2025」金賞も受賞。

ラム・アグリコール(Rhum Agricole)とは、「農業的ラム」という意味。サトウキビの搾り汁から直接発酵・蒸留して造るラム酒のことで、砂糖の副産物である糖蜜(モラセス)を使う一般的な製法と異なり、サトウキビ本来のフレッシュな香りやテロワールが鮮やかに表現される、世界でも希少な製法だ。
製糖メーカーとして徹底するのはサトウキビの鮮度。アーキバスでは、種子島産の自社畑のサトウキビを収穫後24時間以内に搾汁する。翌日に搾れる量のみを収穫して、ショ糖の分解を防ぐ。虫食いや葉っぱも手作業で選別し、一番搾りの高糖度ジュースのみを原料とする。搾りすぎず、皮の渋みを避け、無加水・無調整で仕上げることで、純粋な味わいを守る。


2010年、サトウキビの栽培を始めた理由は、砂糖の可能性を広げたいという想いからだった。一般に流通する砂糖のほとんどは、輸入された原料糖から製造されている。砂糖離れが進む中、自社で栽培から手掛けることで、自然の恵みである砂糖の「畑から食卓まで」のストーリーを世に伝えられるのではと考えた。
当初は失敗が続いたが、畑を千葉から種子島に移すことで風向きが変わる。補助金に頼らず、耐風性や耐倒伏性よりも味わいを重視した品種の選定や栽培方法の工夫を施し、砂糖だけでなく、ラム酒やシロップ・デ・ケーン(サトウキビ蜜)、サトウキビ由来の酢などの付加価値の高い製品を生み出した。また、廃液とバガス(搾りかす)を堆肥化して畑に還元するほか、無農薬栽培へ転換を図るなど、地域に根差した循環型の活動も進めている。

農林水産省の「砂糖及び異性化糖の需給見通し」によると、日本の砂糖の消費量は近年約175万トンで推移している。この数字を人口で割ると、1人あたり約15㎏。先進国中最下位と顕著に少ない。異性化糖や人工甘味料が増える現代において、農作物としての砂糖の味わいに触れたことのある人がどれだけいるのか疑問も残る。
少子化や高齢化、人口減少と労働力が先細る日本で、プリミティブな甘味の癒しがないのはあまりに味気ない。砂糖の消費量がピークを迎えたのは、高度経済成長期の1970年代前半(約28〜30kg/人/年)。あの時代が理想とは言えないが、今の日本に必要なのは、砂糖の持つパワーなのかもしれないと思えてくる。
大地の甘味は、今を乗り切る力をくれる。日本で唯一畑を持つ製糖会社の躍進の社会的意義が改めて注目されている。
◎ARCABUZ(アーキバス)
https://www.arcabuz-rum.com/
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