精緻でおおらかで斬新。気鋭の若手シェフが紡ぐ国境を越えた味覚の旅
France [Paris]
2025.12.18
text by Sakurako Uozumi
「豚バラ肉の低温コンフィ、コーヒーキャラメルソース、トウモロコシピューレ、胡椒ゼリー」。低温で10時間コンフィした豚バラ肉に、コーヒーキャラメルと醤油の甘辛ソースを合わせ、トウモロコシのピュレと胡椒ゼリーを添えた一皿。柔らかさと濃厚な味わいのコントラストが際立つ逸品。photograph by mariechevalierf
今、パリ・マレ地区で注目を集めているビストロ「フィンカ(Finka)」。手がけるのは、コロンビア出身の若きシェフ、エステバン・サラザールだ。南西フランスの名店「シャトー・デュ・テイユ」で腕を磨き、2024年は人気料理番組『トップシェフ2025』への出演を経て、再びパリに拠点を移した注目株である。
彼の料理は単なる“ラテン料理”ではない。フランス料理の精緻な技法に、南米の記憶と情緒を織り交ぜた独自の表現だ。メニューは小皿形式で構成され、カリブ海からアンデス、太平洋、アマゾンへと味覚の旅を描く。
たとえば、豚のコンフィにアンデス産コーヒーのキャラメルを合わせ、ライムとトウモロコシで軽やかに仕上げた一皿。炭火で焼いたイカにティトテ(ココナッツミルクのキャラメル)を添えた料理や、キャッサバのニョッキに鶏肉のコロッケを組み合わせた皿など、香りや温度、テクスチャーのコントラストが秀逸だ。
「僕が目指しているのは郷土料理の“再現”ではなく、“記憶の中の味”を生み出すこと。食べた瞬間に懐かしさが蘇るような料理を作りたい」とエステバン氏は語る。
その言葉どおり、彼の料理は異国情緒をなぞるものではなく、“記憶の温度”を現代の食卓に呼び戻す試みだ。南米の風土や家庭の情景を、フランスの技と感性で繊細に描き直している。ガラス張りの天井からは自然光が差し込み、緑と素材の質感が調和した心地よい空間。どこかニューヨークのロフトを思わせるおおらかな開放感がある。
「Finka」とはスペイン語で“家”や“農園”を意味する言葉。人が集い、語らい、料理を分かち合う。その精神がこの店の根底に流れている。ラテンの情熱とフランスの洗練が響き合うフィンカは、国境を越えるだけでなく、味覚の記憶と文化を編み直す新世代のビストロである。
◎RESTAURANT FINKA
57 rue des Gravilliers, 75003
19:00~23:00
日曜、月曜休
contact@datshaunderground.com