デジタル社会に逆行する、英国で話題の“フォレイジング・ウォーク”とは?
England [London]
2026.01.13
text by Yuka Hasegawa
「トータリー・ワイルドUK」が主催する野生食材を採集する“フォレイジング・ウォーク”の一場面。「優れた知識を持ちながら、自信を持って伝える場を持たないフォレイジャーが多くいることに気づき、情熱あるフォレイジャーやシェフとチームを組織しました」と創設者ジェームズ・ウッド氏。現在では全国でコース運営、研究、教育プログラム、ワイルドフードイベントなど、英国を代表するフォレイジング団体へと成長している。photograph by Hikaru Funnell Photography - George Fredenham
2020年に世界を震撼させたパンデミック。英国では当時再三のロックダウンが続き、人々は癒しを求めて公園や森を歩き、エルダーフラワーやワイルドガーリック、イラクサなどを摘んで自家製のコーディアルやペーストを作る“フォレイジング(野生食材の採集)”が静かなブームとなった。それまで自然愛好家や一部のガストロノミー関係者の領域だった行為が、ゆるやかにメインストリームへと広がり始めた。
以来、野生の植物を採って食べるという営みは、英国人の暮らしにしっかり根づいている。春はハーブやベリー類、そして食用花、秋はキノコ、海辺では豊富で多様な海藻――ロンドン近郊をはじめ、全国各地で1年を通してフォレイジング・ウォークが開催され、人気を集めている。
「サステナビリティ、ローカルフード・システム、地産地消、マインドフルネスな暮らし・・・。こうした価値観を大切にする人が増える中、フォレイジングは自然にそれらと重なり合っているのです。大地との関係性を深め、店では出会えない風味に触れ、立ち止まって自然を観察する時間を取り戻す。デジタル情報があふれる今、フォレイジングは“地に足の着いた実践的なスキル”として再評価されていると感じます」と語るのは、「トータリー・ワイルドUK (Totally Wild UK)」の創設者、ジェームズ・ウッド氏である。現在はロンドンと英南東部を始め、ミッドランズ、北部、ウェールズ、スコットランドなど、英国各地10カ所以上で活動する。
現在、各地には同団体による専門トレーニングを受けたフォレイジャーが拠点を置き、地域の知識と季節の経験に基づいたフォレイジング&クッキングコースを主催している。
参加者は若いエリート層からフーディー、家族連れ、リタイア層、シェフ、バーテンダーまで幅広い。
「料理、環境、ウェルビーイング、あるいは“新しい学び”への興味から参加する人が多いですね。共通しているのは、尽きることのない好奇心とおいしいものへの愛情です」とウッド氏は話す。
「フォレイジングの最大の魅力は、森や草原を歩きながら、それをまるでマーケットの屋台を眺めるように理解できるようになること。私たちのセッションでは、野生食材の見分け方を学び、野外料理や発酵、アウトドア・ダイニングを組み合わせています。五感を総動員し、共に学び、味わい、分かち合う。心の奥から力が湧いてくるような体験です」
自然とのつながりを取り戻し、サステナブルな暮らしへの意識を広げ、野生への敬意を根づかせること――それがウッド氏の描く今後のビジョンだ。AIが生活を大きく変えつつある現代において、フォレイジングはもはや“スローライフの趣味”に留まらず、食べることの根源に触れる体験として、静かに存在感を強めている。
◎Totally Wild UK
https://totallywilduk.co.uk
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