ザクッとほどけて、穏やかな余韻。「米粉のブールドネージュ」
パティシエのプラントベース設計:神奈川・北山田「ぱんと菓子 いろり」
2026.01.23
photographs by Sai Santo
植物性素材だからこそ設計できる新しい味があります。
油脂・糖類・粉・ナッツや豆類の選択と組み合わせによって、バター菓子とは異なるコクや軽さをデザインするプラントベースの発想は、菓子を焼くうえで、知らぬ間に培われた製菓の固定概念から解き放ちます。定番菓子を植物性で再構築する考え方を通して、「代替レシピ」ではない、新たな“美味”と出会うレシピをプロに教わります。
神奈川・北山田「ぱんと菓子 いろり」
高崎 紗綾さん
米粉に水分を奪われない
「フランス菓子」である。濃く、深い、粉の焼き込みから立ち昇るあの味わいが好きなのだ。それが伝わるのが、2024年にオープンした「ぱんと菓子 いろり」高崎紗綾さんの菓子である。パン職人の夫・高崎真哉さんの右腕として菓子部門を仕切る。
そんな紗綾さん唯一のプラントベース素材の焼き菓子が「米粉のブールドネージュ」。「雪の玉」を意味する淡くはかなげな食感、そして、ナチュラルな味わいで語られがちな米粉スイーツだが、紗綾さんのそれには、菓子を焼く職人として、しっかりとした作り手の主張がある。ザクリとした歯触りと、ほどよい塊でしっとり小気味よく砕け落ちる適度な重みのある食感。それでいて余韻は米ときび糖、ナッツの円みのある穏やかなトーン。口内でなくなるのが名残り惜しかった。
米粉のお菓子は、今回が初挑戦だったという。「この北山田の地域はファミリー層が多いんです。ちょうど私が出産後だったこともあり、小さな子どもが食べやすいお菓子をと、米粉をベースに植物性のお菓子を作ってみようと思い立ちました」
手こずったのは、米粉の特性だ。ブールドネージュはスペイン発祥のフランス菓子。バターたっぷりの配合で、ホロホロした食感を目指して作られるものだが、そのまま米粉に置き換えると、「水分が取られすぎて、ホロホロどころか、ボロボロになってしまう」。これを防ぐためには、米粉の水分量のコントロールが肝だ。だが「米粉は商品によって粉の粗さがまったく違います。粗さが違うということは吸水のスピードも吸水率も変わるということ」。豆乳で水分量を調整したり、大豆バターの油脂量を細かく増やしたり、懇意だったグルテンフリーの焼き菓子店の店主にアドバイスをもらいながら配合を詰めて、「ようやく理想のバランスに辿り着きました」。
ミキシングでは、米粉以外の材料はすべて混ぜ切り、大豆バターを乳化させて気泡を抱き込んでから、最後に米粉を投入して混ぜる。米粉を加えたら粘度が出すぎないよう手早くさっと混ぜ切ること。同じ粉類である米粉とアーモンドプードルはあらかじめ合わせたりしない。
成形は生地を冷やしながら3日かける。融点が低い大豆バター入りの生地は、高温となるベーカリーの厨房だと成形の過程で生地がだれてしまう。「当初は手で丸めてボール型にしていましたが、切り替えてディアマン型にしました」。ミキシング後に一晩冷蔵、カットして冷凍して一晩、そして翌日ようやく成形・焼成となる。時間はかかるが、仕上がりも作業性も上がった。
「グルテンのない米粉の生地は端生地の再利用もできます。ロスがでず、うれしい発見でした」
苦心したプラントベースデビュー作は、入口脇での存在感は控えめ。だが、先日「友人からお土産でもらったのですが、取り寄せで買えますか?」と遠方から電話もあった。すでに着々とリピーターを増やしている。
「米粉のブールドネージュ」材料と作り方
[材料](約160~240個分)※作りやすい分量
植物性バター(不二製油「ソイレブール」)※常温に戻しておく・・・550g
米粉(熊本産)・・・480g
アーモンドプードル(スペイン産マルコナ種)・・・240g
きび糖・・・100g
塩(長崎・五島産) ・・・1.4g
無調整豆乳(九州産)・・・100ml
粉糖(上掛用、コーンスターチ入り)・・・適量
<材料の特徴① 植物性バター>
不二製油の「ソイレブール」を使用。大豆のコクを持ちながら、すっきりとした後味で菓子の味を邪魔しない。食塩不使用のものを使用。「植物性バターは融点が低いので、生地は冷蔵と冷凍工程を挟みながら、成形します」
<材料の特徴 ② 米粉>
タンパク質が小麦の半分ほどしかない米粉は、焼き色がつきにくいが、微細に粉砕された粉ほど、メイラード反応が活発に進行する。「以前使っていたものよりも細かい粉を使うことで濃い焼き色を出せるようになりました」
<目指す「焼き上がり」と「断面」>
外側はしっかりと焼き込み、内側はザクッとほどける。ドライ過ぎす、適度に跳ね返りのある咀嚼感が心地よく、噛み進めるうちに米の穏やかな旨味が口内に広がる。どんなテンションでも食べ進められる、尖った甘さのない包まれるような優しい味わい。
【作り方】
[1]バターを撹拌する
ビーターを取り付けたミキサーボウルに、植物性バターを入れて、白くクリーム状になるまで撹拌する。
[2]砂糖と塩を加える
砂糖と塩を加えてさらに撹拌する。
全体がふんわりとややホイップ状になるまで回す。
[3]アーモンドプードルを加える
アーモンドプードルを加えてさらに撹拌する。
[4]豆乳を2回に分けて投入
豆乳の半量を加えて撹拌し、馴染んだら残りを加えてさらに撹拌する。【POINT】ここまでは長めに混ぜてOK。このステップで十分に気泡を作っておく。
[5]最後に米粉を加える
米粉を全量一気に加えて、撹拌する。
粉が全体にわたって筋が見えなくなればミキシングを終える。【POINT】手早くさっと均一に。米粉に含まれるデンプンは水分を含むと一気に粘度が出るため、長々と混ぜると焼き上がりが硬く、重くなる。
[6]冷蔵して一晩
ラップをして冷蔵庫(5℃)で一晩おく。【POINT】バターを冷やし固めて、気泡を安定させる。
[7]棒状に成形し、冷凍で一晩
翌日、生地を冷蔵庫から取り出して棒状にカットする。 1本ずつ手で転がしながら、直径2.5cm・長さ30cmほどの円柱状に整える。再びラップをして冷凍(-20℃)へ。【POINT】最後の成形で、美しくかつ均等に切り分けるために冷凍する。
[8 ]1.5㎝幅のディアマン型に切る
冷蔵庫からだして2~3分、常温に戻してからカットする。常温に戻しすぎると、カットする時に形が崩れてしまう。
1.5㎝幅に切る。
[9]焼成
天板にシルパンを敷き、カットした生地を並べる
160℃で14~15分焼成する。
[10]天板を入れ替える
10分後、天板の前後を入れ替えて4、5分焼く。
[11]焼き色をチェック
裏側を確認し、焼き色がついていたら取り出す。焼き色が足りなければ1~2分刻みで追加焼成する。
窯から取り出し、10分ほど、粗熱をとる。
[12]粉糖をかける(1回目)
一度目の粉糖をまぶす。「焼きたて熱々で一度目の粉糖をかける方法もありますが、私は冷めるまで待った方が生地が粉を吸いすぎずによいと思っています」
[13]粉糖をかける(2回目)
完全に冷えたら、2回目の粉糖をかける。【POINT】二度がけすることで、粉糖が生地から浮いた状態になり、白く美しい状態に。
[14]完成
◎ぱんと菓子 いろり
神奈川県横浜市都筑区北山田2-5-4 CASAPORTA 1F
☎045-620-5280
9:00~17:30
月曜、火曜休(定休日が祝日にあたると営業)
Instagram:@pankashi.irori
※本レシピはプラント由来材料を主体としていますが、砂糖の精製工程では動物由来成分(骨炭)が使用されることがあります。完全なヴィーガン対応をご希望の場合は、ヴィーガン認証砂糖をご使用ください。
※パンの製造を行っているため、店舗販売の菓子には小麦が混入する可能性があります。