新時代のバリスタの表現を競う。トリノへのチケットを賭けた5人の戦い
BARISTA CHALLENGE by LAVAZZA東京予選リポート
2025.12.26
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text by Fumiko Kano / photographs by Atsushi Kondo
サードウェーブ以降、各国でそれぞれのコーヒーカルチャーが花開き、コーヒーは単なる嗜好品ではなく、表現ツールとなった。産地や精製、焙煎、抽出に対する価値観は細分化。「正しさ」よりも「スタイル」が尊重され、コーヒーを生業にする人々が一気に増えた。そんな時代にバリスタたちはどんな生き方、表現を目指しているのだろう? 2025年11月、「BARISTA CHALLENGE by LAVAZZA」に向けて開催された東京予選に潜入した。
目次
本選と同じ条件で競う
今年で創業130年を迎えるイタリア・トリノ発祥の老舗コーヒーブランド「LAVAZZA(以下、ラバッツァ)」。その長い歴史が物語る通り、イタリアの伝統的なエスプレッソ文化を牽引しながら、ここ10年でグローバル企業としての地位を築き上げてきた。そのラバッツァが主催する「BARISTA CHALLENGE by LAVAZZA」に日本から初参戦が決まり、2026年春にトリノで開催される本選出場をかけて、2025年11月、書類審査を通過した5名のバリスタによる白熱した戦いが繰り広げられた。
競技内容は、ラバッツァの指定エスプレッソ豆を使用し、エスプレッソ4杯とシグネチャードリンク4杯(ノンアルコール/エスプレッソ使用/スタイル自由)を時間内に審査員に提供するというもの。東京・恵比寿のレコールバンタン東京校を会場に、選手たちは初めて使うマシンの調整に10分、競技に15分を与えられ、限られた時間でパフォーマンスを最大限発揮するという本選と同じ条件で行われた。
審査は、「官能(表現)」と「テクニカル(技術)」の2軸から行われる。官能部門審査員は計4名。専門家として、ラバッツァ・オーストラリアのナショナルトレーニング&ディストリビューションマネージャーを務めるニック・フェラーラ氏と東京・広尾のバール「ピエトレ・プレツィオーゼ」のオーナーバリスタ阿部圭介氏。コーヒー愛好家としてラバッツァ本社勤務のプロジェクトマネージャーでソムリエの資格をもつアレッサンドロ・ピアッティ氏と、『料理通信』編集長の曽根清子が、各々の視点から審査を行った。
エスプレッソという手段と表現
専用のマシンを使い、高圧をかけて短時間で抽出するイタリアンエスプレッソ。きめ細やかなクレマと濃厚な味わいは、「これぞエスプレッソ!」と言う正解がありそうなイメージだが、実はもっと自由で多彩だ。たとえ同じ豆を使っても、マシンの種類や状態、わずかな温度設定や抽出時間の違いで無数の味覚体験が生まれる。それを操るのが、バリスタと呼ばれるプロの抽出師。彼らの知識、技術、そしてその日のマシンや飲み手の状態を見極める判断力、その全てが凝縮された飲み物がエスプレッソだ。
では、正解のない飲み物の何を競うのかというと、バリスタの表現の「正確さ」。指定された豆の個性をどう解釈し、どんな香りや味わいを引き出そうと意図したか、各選手のプレゼンテーションと抽出されたエスプレッソを照らし合わせて審査が行われる。
実際、今回使用した「テイルズ・オブ・イタリア キャナルグランデ/ヴェネツィア」は、チョコレートやナッツの甘味を湛えつつ、フルーティーな味わいや柔らかな余韻も引き出せる表現の幅が広いブレンド。エスプレッソを味わう審査員たちも、選手たちの解釈と抽出の答え合わせをしつつ、この豆が持つポテンシャルの高さに驚きを隠せない。
ノンアルコールドリンクの新境地
元来イタリアのバール文化では、バリスタはエスプレッソだけでなく、アルコールも提供する。イタリア人にとってバールは1日に幾度も通う交流の場であり、バリスタはエスプレッソ提供以外のサービスも求められる。近年はマシンの性能も上がり、学びや情報を得る場も格段に増え、エスプレッソの甘味や酸味、質感の微細なコントロールと副食材との融合で、新たな味覚体験を模索できるようになった。
予選のもう一つの題材であるシグネチャードリンクは、そんな現代のバリスタの表現の幅を可視化するもの。選手たちは、エスプレッソを軸に各々が歩んできたコーヒーとの物語や、イタリアや日本の文化へのリスペクトを一杯のドリンクに込め表現した。その多彩なアイデアは、見た目も味わいも「コーヒーのアレンジドリンク」を超え、ノンアルコールカクテルと呼びたくなるものだ。
トップバッターとなった宮城県仙台市のバー「Mixology Bar Source241 仙台東口店」を経営する五十嵐祐さんは、ラバッツァ本社のあるトリノで愛されるコーヒーチョコレートドリンク「ビチェリン」をベースに、和三盆糖や味噌パウダーなどの和素材を組み合わせ、イタリアと日本の文化融合を表現。まったりとした口あたりのコーヒーチョコレートと味噌の意外な相性に気付かされる一杯だ。
バール文化に憧れバリスタを目指した内木昴汰さんは、まだ渡伊経験がない“純国産バリスタ”だと自称しながら、イタリアへの強い愛を「Passione Silenziosa(静かな情熱)」と名付けたシグネチャードリンクで表現した。濃厚な甘味とコクを持つ福岡県八女産の玉露を和歌山県産のぶどう山椒と合わせて抽出し、苦味を和らげつつ旨みと甘味を引き出したところへエスプレッソを注ぐ。二層の美しいコントラストが混ざり合う一杯で、両国の架け橋になることを願う。
イタリア現地のレストランで料理人経験もあるバリスタ&飲食店アドバイザーの髙木俊宏さんは、イタリアの伝統菓子・ザバイオーネで使うマルサラ酒をエスプレッソに置き換え、再構築。きび砂糖を加えたダブルエスプレッソで苦味と甘味のバランスを調整し、卵黄と生クリームを使ったザバイオーネソースと合わせた。トップに少量の塩と黒トリュフを散らせば、レストランのグラスデザートさながらの仕上がりに。審査員からも「もうこれは料理だ!」と驚きの声が上がった。
東京でフリーランスバリスタとして活動する宮元裕樹さんは、「特別な道具や設備がなくても作れ、幅広い年齢層が日常で楽しめるドリンク」をコンセプトに、イタリアのカクテル「スプリッツ」やコーラを想起させる一杯を提案。シナモンやクローブ、カカオニブやコーラナッツを煮出したシロップと、パウダースパイスを加えてシェイクしたエスプレッソを合わせた。氷の入ったグラスを回すとスパイスの多彩な香りが立ち昇る。
ノンアルコールカクテルの需要がレストランでもバーでも高まる昨今、エスプレッソの風味を自在に操るバリスタのミクソロジストとしての可能性を感じさせる。
世界の舞台で求められる技術と表現力
バリスタは、抽出師であると同時にサービスマンである。お客の食べている料理や来店する時間帯、気温やシーンに応じて、そのとき最適と思う1杯を抽出する。レシピはあくまで基準であり、その場に応じた柔軟で血の通ったパフォーマンスとクリエイティブが求められる。
しかし最近は、お客よりも「知識や技術に執着するストイックなバリスタが増えている」と審査員の1人である阿部氏は語る。また、マシンの性能も格段に上がったため、マシンの数値やデータに頼ってしまうバリスタも少なくないそうだ。
今回、東京予選で優勝したバリスタ・鈴木博人さんは、限られた時間を有効に使うため、エスプレッソにもシグネチャードリンクにも、最大限の事前準備をしていたことがプレゼンテーションからも垣間見えた。抽出の技術やレシピの発想はもちろん、抽出中も審査員に極力背を向けず、エピソードや想いを生き生きと語り、常に飲み手を意識した所作とバリスタとしてのサービス精神の高さに審査員から賞賛が集まった。
審査発表は、広尾のバール「ピエトレ・プレツィオーゼ」に場所を移して行われた。優勝者の発表後、リベンジを目指してアドバイスを求める選手たちにラバッツァ・オーストラリアのニック氏はこう語った。
「エスプレッソという味があるわけではない。私たちはエスプレッソという方法でコーヒーをクリエイトするのだ」
現にイタリアとオーストラリアのエスプレッソの好みは異なるし、各国で文化も違う。正解を求めるのはナンセンスで、バール文化が定着していない日本もまた、日本人の嗜好や生活スタイルに合わせて、エスプレッソ文化を浸透させていけばいいのだと。
人々の生活に揺るぎなく根差してきたイタリアのエスプレッソ文化は今、多様化の時代を迎えている。各国のエスプレッソ文化がトリノに集結する3月の本選では、どんな戦いが繰り広げられるのか。初の日本代表の活躍に期待したい。
◎LAVAZZA
https://www.lavazza.jp
「BARISTA CHALLENGE by LAVAZZA 2026」については公式SNSにて
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