【食のプロの台所】夫婦で作った〝自分の台所〟
料理家・料理本作家 八須ナンシー
2026.10.15
text by Noriko Horikoshi / photographs by Hiroaki Ishii
連載:食のプロの台所
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。カリフォルニアに生まれ、埼玉県上川町で暮らす八須ナンシーさんの自宅を訪ねました。築70年の古民家で実現したのは、玄関を入ってすぐ、家族の気配とつながる台所。
八須ナンシー
料理家、料理本作家。米国・カリフォルニア州生まれ、スタンフォード大学を卒業。1988年に来日し、埼玉県神川町で有機農家を営む八須理明氏と出会い、結婚。英語の食育学校「Sunny-SideUp!」を主宰(2001〜2022)。
著作に、農家の台所や日常の献立を紹介する『Japanese Farm Food』、また、ファイドン社が出版する各国の料理本シリーズ「Japan: The Cookbook」は、英語版が20万部を売り上げ、他の5カ国語にも翻訳されている。現在、地元ラーメン店「ドラサン」の旬の魚介類や野菜を使ったラーメンレシピを紹介する「Japanese Ramen」(2027年)と、能登半島の老舗旅館の1年間の生活と食卓を描いた「Japanese Family Meal」(2028年)を執筆中。
Webサイト:https://www.nancysingletonhachisu.com/
(TOP写真)
冷蔵庫はSub-Zero社、ガスレンジはVIKING社と、いずれも米国製。それぞれのサイズに合わせて木材の建具を特注し、ナンシーさんが塗料を塗って仕上げた。床材には、丈夫で温かな質感のメキシカンタイルを採用。
「古いもののカッコよさ」をいかす
日本式でも米国式でもない。“自分の台所”を作るのだ! 今から26年前、夫の生家である築70年の古民家に移り住むことになった時、ナンシーさんは固く心に決めていた。
「一言で言えば、開かれた台所ですね。食べる場所とつながっていて、作っている時の音や匂い、動きを家族とシェアできるような。人の手をかけてこそ料理であることを、3人の子供たちに知ってほしかった」。間取りは家中で一番広々として、気持ちのよい場所がいい。ナンシーさんから見たベストポジションは、玄関の引き戸を開けてすぐ。30 畳大の土間部分である。
「入っていきなり台所なんてダメと、みんなに反対されました。でも、譲らなかったね(笑)。台所は家のセンターだから」
ため息が出るような開放感は、ナンシーさん曰く「古いもののカッコよさ」を最大限に取り入れた意匠によるところも大きい。たとえば、昔の農家ならではの太い梁を残した高い吹き抜けの天井。アンティークの小箪笥を壁付けにしたスパイス棚。
圧巻はご夫婦の共同作品というアイランド型の作業台だ。妻が骨董市で見つけた水屋箪笥の扉に合うよう特注で設えた台に、夫の手でカットした天然石を載せて天板に。聞けば、素材のマラカイトは大理石をしのぐ硬度につき、切り出すのにたいそう骨が折れるらしい。愛のなせるワザである。
(雑誌『料理通信』2017年7月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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