“コミュニケーションする農”を発信。「おいしい一皿」をつくる郡山の生産者ファイル
2025.10.14

【PROMOTION】
text by Yumiko Ito / photographs by Atsushi Kondo
開拓者精神の息づく福島県郡山市で、農に生きる人々を50組以上取材・発信してきたWebメディア「フロンティアファーマーズ」。2018年にスタートした取り組みは、県内外の料理人、食べ手との交流(コミュニケーション)を生み、新規就農の地としても注目を集めています。
「フロンティアファーマーズ」から見えてくる、これからの農業のあり方とは?
目次
【座談会メンバー】

“コミュニケーションする農”の先駆者
鈴木光一さん(鈴木農場/伊東種苗店)

キッチンカーと畑を舞台にコミュニケーションする農家
織田裕志さん

総合病院が手掛ける農業で地域のウェルビーイングを目指す
戸松明子さん(星総合病院 管理栄養士)

フロンティアファーマーズの想いを言葉にするライター
髙橋晃浩さん(マデニヤル)

“コミュニケーションする農”をバックアップ
木村友紀さん(郡山市農商工部 園芸畜産振興課)
食べる人との関係が近い、自分で値段を付ける農業
――「フロンティアファーマーズ」は、農産物より人にフォーカスしていますね。メディアのテーマを“コミュニケーションする農”にした背景から教えてください。
髙橋 メディアを立ち上げた2018年ごろは、若手の生産者が大手のECサイトを利用して野菜を売り始めたり、個人で通販サイトを立ち上げたりと、販路をどうやって広げていくか模索していた時期でした。そうした動きをサポートするため、初代編集長で当時、市の園芸畜産振興課にいた小林宇志(ひろし)さんから、彼らを紹介するコンテンツを作りたいと相談を受けました。
木村 生産者は作物を作ることには長けていても、言葉やビジュアルでのコミュニケーションには慣れていないので、面白い取り組みをしていてもなかなか伝わらない。そこをフォローするメディアを作りたかったのだと思います。
髙橋 ネーミングは、明治からの郡山の歴史*を語るうえで外せない“フロンティア”という言葉を付けて、当初、「フロンティアファームズ」で提案しました。すると小林さんから、いや、農園じゃなくて、人にフォーカスしたいんだということで「フロンティアファーマーズ」になりました。サイトに並ぶ農産物を身近に感じてもらうには、その奥にいる人を知ってもらうことが大事だと感じていたのだと思います。
*郡山の歴史:明治維新後、東北地方の開発第一弾が郡山からスタート。全国から2000人の士族が集まり、猪苗代湖の水を引きこむ「安積疏水(あさかそすい)」の大規模事業が行われ、現在の豊かな農地の土台を作った。

――フロンティアという言葉が外せないとのことでしたが、実際、郡山には開拓者精神を持った生産者さんが多いのでしょうか。
鈴木 郡山は消費地であり生産地でもあり、また首都圏が近いこともあって、いろんなチャレンジがしやすい土地だと思います。独自の考えで農業をされている方は、県内の他の地域と比べても多いかもしれません。
木村 鈴木さんも、元々米農家から野菜農家になって、2003年からは「郡山ブランド野菜」を個人で立ち上げ、多品目栽培に取り組んでいらっしゃいます。
鈴木 私が農業を始めた40年前は、もうこれから米の価格は上がる見込みはないという時代だったので、米以外のことをやりたいという思いがありました。買ってくださる方と近い関係の農業をしたいという思いと、自分で値段を付ける農業がやりたかったので、直売所も始めました。
――いまでこそ生産者が自分で値付けをしたり、消費者に直接販売できる場も増えましたが、当時はかなり珍しかったのでは?

鈴木 僕は農家もメーカーなのだから、生産原価がいくらかかって、そこに利益をのせて、いくらで売るか、農家自身が考えなければいけないと思っていました。農産物も他の商品と同じように、「買いたい!」と思ってもらえるものを作っていかないと、このままでは行き詰まると感じて舵を切りました。
――自分で価格を決めるということは、自分で販路を開くことにもつながりますよね。
鈴木 農家は作ることが仕事で、売るのは別の人がやってくれるという仕組みが当たり前になっているなかで、大学4年の冬休みに思いがけない体験をしました。父親から市場に白菜を持っていくように言われて、トラックに何百個と積んで運んで、次の日、代金を受け取りに行ったら、1個がたったの5円だったんです。そのときはたまたまあたり年で、郡山のキャパシティを超えた白菜が集まったこともあって、値崩れしたのですが、こんなに立派でおいしいものが、いくら需要と供給の関係とはいえ、5円でしか買い取られないなんて、どう考えてもおかしいと。それもあって直売所を始めたんです。
――直接、消費者とつながると、良くても悪くても何かしらの反応が自分に返ってきますが、そうすると野菜作りも変わってきましたか?
鈴木 まるっきり違うと思います。うちは種苗店もやっているので、種から吟味した栽培ができます。味に特化した品種、栄養価に特化した品種など、おいしくて体にいい品種を選びながら、種の特性を栽培でどこまで伸ばせるか、勉強の繰り返しです。それが「郡山ブランド野菜」の根っこになっています。

<郡山ブランド野菜を紹介したフロンティアファーマーズの記事>
木村 織田さんも就農されてからキッチンカーで焼き芋を販売したり、食べる人と直接つながる活動に積極的な生産者のお一人です。
織田 実は、キッチンカーは焼き芋を売りたくて始めたのではなく、米を売りたくて始めたんです。
専業農家になって、郡山の「あさか舞(まい)」というブランド米の栽培から始めたのですが、食味の点数も高いおいしい米なのに、直売所で自分の米が全然売れなかったんです。「どうして売れないんだろう?」と周りの人に聞いたとき、ある人から「あなたが有名じゃないから売れないんだ」と言われたんです。その言葉にはっとしました。
確かに知っている人の米があれば、そちらを手に取りますよね。じゃあどうやって自分を知ってもらうか、と考えたときにサツマイモも作っていたので、「農家のキッチンカー」というコンセプトで焼き芋を始めたんです。変わった活動をしている農家ということで注目されるようになって、ラジオに出させてもらったりしているうちに、農協さんに出さなくてもいいくらい米が売れるようになってきました。

――当初から独自に販路を開拓されてきたのは、価格を自分で決めたいという思いがあったからですか。
織田 はい。先ほど鈴木さんがおっしゃった通りで、自分で価格を決められないって、たぶん農家だけなんですよね。農家も生活するために仕事をしているのに、自分で作ったものに値段が付けられないのは悔しいし、そもそもそんな話ってあるのかな、と。
この状況が、農家の減少が止まらないことにもつながっているんじゃないかと思っています。自分で作ったものに適切な価格をつけ、その価値を理解してもらうことはすごく大事だし、持続可能な農業を実現していく上でも欠かせないと思って始めました。
都心からのアクセスの良さを活かした接点づくり
――「郡山ブランド野菜」は県内外のシェフたちにも人気ですが、料理人とのコミュニケーションで刺激を受けることはありますか?
鈴木 シェフが数千円、数万円のコースを作るときに、うちの野菜を使いたいと言ってもらえるよう、新しい目標を持つことで、いいものを作っていこうと息子と話をしています。
今、ベビーリーフよりも小さいマイクロリーフを30~40種類作っていて、店が近いシェフにはハウスに来てもらって、好きなサイズ、種類を選んで収穫してもらっています。こうした野菜の需要は、直接シェフとコミュニケーションをとって初めてわかったことです。シェフの好みがわかってくると、こちらからも提案がしやすくなって、そうしたキャッチボールが今、すごく楽しいです。
木村 織田さんはキッチンカー以外にも芋掘りイベントや、都心からのアクセスの良さを活かして、都市と畑の接点づくりをされていますよね。
織田 はい。就農して痛感したのが収穫のときの人手不足でした。今はまだ、友達の農家さんもいて手伝ってもらえますが、高齢化が進むなかで、10年後はどうなるんだろう・・・と考えたら、自分も農業を続けられなくなるんじゃないかと怖くなったんです。
最初は子どもたちに収穫体験を通して、農業に興味を持ってもらうのが目的でした。でも、子どもだけでなく、大人でも土に触れたい人はいるし、リタイア後に農業をやりたいという人もいる時代ですから、間口を広げれば、喜んで手伝ってくれる人はいるんじゃないかと思ったんです。
木村 郡山は東京まで新幹線で1時間半を切りますから、立地的なメリットも活かせますね。
織田 イベントでは、なるべくリアルなものを見せるようにしています。というのも、食育活動でよくある田植えのように、昔ながらの手植えで、大変な作業をするイメージが残ってしまうと、大人になってから農業をやりたいと思わないんじゃないかと。それより畑にトラクターやコンバインなど農機具を3、4台並べておくと、目をキラキラさせる子どもがたくさんいるんです。帰ってから検索して調べる子もいると聞きました。

髙橋 取材のとき、織田さんが撮影用に農機具をまわしてサツマイモを掘り出してくれたんですが、メカ感がすごくて、それだけも男子はワクワクすると感じました。土からサツマイモが掘り起こされた後をついていって、カゴに収穫していくのもアトラクションのようで面白かったです。
織田 こうした体験で農家に対するイメージが変わって、10年後、自分のところに農業をやりたいという子が一人でも二人でも出てきてくれたらいいなと、今は仲間を増やす気持ちでやっています。
<織田さんを紹介したフロンティアファーマーズの記事>
農業でおいしく未病に取り組む
――「フロンティアファーマーズ」では農家だけでなく、料理人や、最新の記事では地域の総合病院が取り組む農業についても取材していますね。
木村 今年、郡山駅から徒歩5分ほどの場所にオープンした診療所付きの複合施設「おおまちてらす」を運営されている星総合病院の管理栄養士、戸松さんにご登場いただきました。

戸松 星総合病院が地域のウェルビーイングを目指し、レストランを併設する複合施設「おおまちてらす」を建てることは10年前に決まっていて、その第一歩として農業を始めました。幼児期の教育がこれからの日本を支えるという考えが理事長にはあって、それには身近に作物が育つところを体験してもらうことが大事だという思いがありました。
――始められてからの感触はいかがでしたか。
戸松 当初は農福連携を見据えて始めた農業ですが、やっているうちに、自分たちで作った野菜を病院給食に出すことができるようになったり、健康を維持するためには、口に入るものがいかに大事かを伝えていく必要性を感じるようになりました。
――農業が身近になったことで、管理栄養士としての仕事に変化はありましたか。
戸松 患者さんに栄養指導をしても、生活習慣を急に変えるのは難しく、もっと手前の段階から関わらないと病気を防げないことを実感していたので、我慢する食事ではなく、「おいしく食べて健康に」という長年の課題に取り組める環境になったことはありがたいです。

管理栄養士の役割は、知識や思いを家に持ち帰って継続できるようにすることも大切な仕事で、「おおまちてらす」ではレストラン内でお惣菜も販売しています。その場で食べて終わりではなく、健康的な食を習慣化できるよう、再現性のあるものに取り組むこともコンセプトのひとつなんです。

<戸松さんを紹介したフロンティアファーマーズの記事>
――「フロンティアファーマーズ」は、消費者と農家だけでなく、農家さん同士をつなぐメディアにもなっていませんか? 特に新規就農を考えている人には、こうしたメディアがあると、相談しやすいと思うのですが。
木村 直接的かはわかりませんが、メディアを始めた翌年から問い合わせが増えています。就農相談件数はスタート時の倍以上になっています。
鈴木 うちでも就農希望者を受け入れていて1~3年研修してもらっています。
地域の若い就農者と「ビギナーズスタディー」という集まりをやっているんですが、彼らが今、何を問題に感じているか、育て方なのか、販売なのか、課題を共有するようにしています。新しい品種にチャレンジするのも、一人では1年分しか結果が見えませんが、5,6人で違う品種にトライすれば5年分、6年分のことが一度に知れるので、すごく機能しています。
織田 僕のなかで昔から、農家は自分の知識をあまり人に教えたくない、というイメージがあったんですが、自分だけの知識にしておくのはもったいないですよね。鈴木さんのように知識を開示していくと、若い農家が少しでも早くおいしいものを作れたり、収量を増やせて、農業でもっと早く食べていけるようになると思うんです。そうしたことが郡山では積み重なってき始めているのかなという実感がすごくあります。
<郡山ブランド野菜に取り組む生産者の記事>
言葉にすることを覚えた生産者が集まる強み
――「フロンティアファーマーズ」の取材を受けて、ご自身の中で何か気づきはありましたか?
戸松 私は「おおまちてらす」がオープンする前に取材を受けたことで、改めて農業を施設のレストランとどうつないで地域に広げていくか、目標を考えるきっかけになったと思います。



織田 僕は自分の思いを言葉にすることができるようなりました。思いは頭の中にあって、自分では理解できていても、人に伝えるのは難しくて苦手でした。取材を受けたことで、自分がしゃべったことがわかりやすい言葉に言い換えられて、すごく勉強になりましたし、ありがたかったです。
言葉にすることを覚えてからは、自分からも働きかけができるようになりました。今年の芋掘りイベントでは、参加者を増やすために協賛を得て無料でやることができたのですが、自分の思いをいろんな方へ説明できるようになっていなければ、実現できなかったことだと思います。

鈴木 当たり前のことですが、伝えないと、伝わらないんですよね。「郡山ブランド野菜」もそれぞれの品種の特徴や栄養価の高さ、味の差も食味センサーを入れてデータにして示したのは、よりわかりやすく他とどう違うかを伝えるためです。その上で、食べたいと思ってもらえる写真や映像など、野菜を魅力的に見せていくことも意識してきました。
こうしたことに早くから取り組めたのは、やっぱり震災が大きかったです。風評被害をどうすれば乗り越えていけるか、何をどう伝えれば買いたいと思ってもらえるのか、みんなで本当によく話し合いました。

――昔から育てている野菜だから、ブランド野菜だからいいだろう、ではなく、おいしい理由を説明できるのが「郡山ブランド野菜」ということですね。
鈴木 逆に、自分たちで考えるだけでなく、いろんな人がいろんな角度で農業を見て、気づかせてくれることも、すごく大事だと思っています。
畑に来られると、皆さん本当に反応が違うんですよ。ある方に、「畑ってこんなにフカフカなんですね」と言われたことがあって、自分では一度もそんなふうに思ったことがありませんでした。実際に畑に寝てもらうと、今度は、「野菜ってこんな気持ちで育ってるんだ」と言われて、自分たちからは出ない言葉をいただいたんです。それが旅行会社さんと一緒にやっている「野菜の気持ち」というフードキャンプのイベントにつながりました。
木村 シェフを呼んでキッチンカーでいろんな農家をまわって、農業体験をしながら、畑で採れた野菜をコースで食べてもらうんですが、参加者だけでなく、地域の人もワクワクや元気をもらえるイベントになっていてとても好評です。
鈴木 これから農業の魅力を伝えるのは作物だけではなく、体験する魅力も全部ひっくるめて、農業の魅力にしていけたらいいなと、いろんな方とのコミュニケーションを通して思うようになりました。
――伝える側として「コミュニケーションする農」に関わってきた髙橋さんは、今日皆さんの話を聞いてどう感じましたか?
髙橋 取材を通して、生産者の方は皆さん、作物を育てる技術はもちろんですが、必ず信念をお持ちでした。でも、自分で言葉にしたことがなかった。そこに言葉を提供して差し上げられたのだとすれば、本当にうれしいことで取材者冥利に尽きます。

木村 言葉を持った生産者の方が、50人以上いるということは、他の地域にはない特別な強みだと感じています。
髙橋 通販をサポートする目的でスタートしたメディアでしたが、就農希望者や農業の関係人口を増やすプラットフォームにもなりつつある。言葉を手にした生産者の方々が、いろいろな形でコミュニケーションをしていけば、郡山の農業の未来が見えてくるかもしれません。これから第二章が始まりそうですね。
◎フロンティアファーマーズ
https://koriyama-city.note.jp/
Instagram:@koriyama_farmers
Facebook:@koriyama_farmers
◎こおりやまの農と食
https://frontier-farmers.com/
◎Restaurant Pons
福島県郡山市大町2-1-16
☎ 024-983-6900
デリ10:00~17:00
ランチ 11:30~14:00
ティータイム 14:00~17:00
ディナー 17:30~21:00(金、土曜のみ、完全予約制)
Instagram:@restaurant_pons
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