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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

83歳。飴づくりは恋愛と一緒、熱しやすく冷めやすい。だから技術と体力がいるんだよ

生涯現役|静岡・ 片羽町「望月茶飴本舗」望月功

2025.09.16

text by Fumiko Kano / photographs by Yoshiko Ikoma

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


望月功(もちづき・いさお)
御歳83歳 1942年(昭和17年)5月21日生まれ

静岡県静岡市葵区生まれ。高校卒業後、初代である父の元で茶飴づくりを始める。茶飴のほか、新たな社の看板商品である「ひとくち羊羹」を生み出すなど、精力的に活動中。長年続けるクラリネットで吹く静岡民謡「ちゃっきり節」は、殿様のかつらを被り、「はっぴー茶んす」と書かれた法被を着て演奏する姿がメディアなどでも紹介された。

(写真)茶飴の生地を練り込む望月さん。気温や湿度によって硬さが変わる茶飴は、スピードとチームワークが命。1回に20kgほどの生地を煮詰めて練り上げ、棒状に伸ばし、重ねて成形する。安定して綺麗な「茶」の字に仕上げるのは、熟練の職人でも難しい。


茶飴の材料は、グラニュー糖、水飴、静岡産の抹茶(やぶきた)のみ。一貫して無添加で仕込み続けている。茶飴は地元のスーパーマーケットや茶問屋、土産物店などへ卸す他、徳川家康公が崇拝した静岡浅間神社、同公が祀られた久能山東照宮へも奉納している。  

専門技術を大切にしつつ
新たなヒット商品を生み出すのが「職人」

飴づくりを見る機会は、なかなかないよね。出荷量がピークの時代は1日500〜600kgも仕込んでいたんだ。今は、1回に約20kg、数にすると5000個くらいの茶飴を仕込む。それを1日に6回、週に2〜3回行うから、1週間で約6~9万個の茶飴ができるんだ。

僕の代で、茶飴に使う抹茶は全て静岡産のやぶきたにしたよ。父の頃はまだ抹茶というと京都産が多かったけれど、静岡生まれの杉山彦三郎という人が、津嶋神社前の竹藪を茶畑にして、優秀な茶葉からやぶきたを生み出した。その後、やぶきたは全国的に広まっていったんだ。深みがあって上品で、甘味や苦味、渋味のバランスがいい。生まれた時から茶どころ静岡で菓子店を営む自分たちが使うのは、自然の流れだった。

茶飴の材料は、グラニュー糖と水飴、そして抹茶だけ。余計な添加物は一切使わない。グラニュー糖を直火釜で溶かし、そこに水飴を合わせて柔らかくなるまで30分ほど煮詰めたら、鉄棒で適度な硬さまで練っていく。

茶飴はお茶の緑の部分と、白い部分があるけど、白い部分はグラニュー糖と水飴だけで作る。透明な水飴に空気を含ませて白くなるまで練り続けるんだ。海の波は、空気を含むと泡が白くなるでしょう。あれと一緒。緑の飴は抹茶を加えて、全体が均一な緑色になるまでさらに練る。すごく力のいる作業だよ。

練った飴は、台に移してすぐに成形して3〜4人で茶の字に重ねて組み立て、その後、機械で細長く伸ばして飴玉サイズにカットする。この組み立てのスピードとチームワークが大切。

うちの飴は不純物が入ってないから溶けやすい。気候や湿度で飴の硬さも変わるから、数分で形にしなければいけないし、「茶」の字が上手く組み立てられない時は、途中で止めて、仕込み直したりもする。飴は熱しやすく冷めやすい、恋愛と一緒だね(笑)。飴づくりには、技術と体力、両方が必要だ。

最近は、茶器を使ってお茶を飲む習慣は少なくなってきたけど、例えばペットボトルの緑茶の売り上げは伸びてきてるんだって。お菓子だってね、抹茶を使った洋菓子は人気が出たりするでしょう。1つの側面だけ見て衰退と考えるのではなく、考え方や見せ方次第で伸びるものはどんどん伸びていく可能性がある。

歴史と文化は僕たちだけのものじゃない。職人にとって専門技術は大事だけど、経営的な視点を持たなければ企業は存続できない。古い文化をつなぎながら、新たなヒット商品を生み出すこと、それが僕の考える「職人」の姿だ。
例えば、望月茶飴本舗は、父の代で茶飴を作り、僕はその茶飴を守るために「ひとくち羊羹」を作った。息子は息子の代で、次に繋げる新しいものを考えてほしい。

今は、朝は大体5時頃起きて、バナナや納豆で軽い朝ごはんを済ませて、7時には工場へ向かうよ。午後、仕込みが終わって店に戻ったら、事務仕事や商品の包装などの作業を終わらせて、趣味のクラリネットやピアノを弾く。あと、僕は記録をするのが好きなので、お店のコンセプトを練ったり楽譜をまとめたり、その日あったことや受けた取材のことなどを1冊の本にまとめているんだ。

飴づくりと音楽は楽しいところが似てる。工場で、茶の字をのぞかせて飴をトントンと切っている様子は、静岡民謡「ちゃっきり節」の風情を連想させるんだ。クラリネットは、常に傍に置いていて、講演会やお祭りなどで「ちゃっきり節」を演奏するよ。
「ちゃっきりちゃっきり、ちゃっきりよ。キャアル(カエル)が啼くんて、パカパンパン(間奏)、雨づらよ〜」ってね。いつでも聴きにきてよ!


1個162円(税込)のひとくち羊羹は、「羊羹バイキング」と称して、好きな味を詰め合わせて購入できる。定番は、抹茶を練り込んだ「やぶきた羊羹」。ほかにも、静岡出身の十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」に登場する「弥次さん」「北さん」をイメージした栗を使った羊羹や徳川家康公の葵の紋を入れた「本山茶羊かん」、地元の農産物を取り入れたフルーツ系の羊羹など、20種類以上のラインナップが揃う。
約120度の釜で溶かしたグラニュー糖と水飴を80度で煮詰めた後、職人の手によりひとまとめに練る作業を行う。総量中1/4はここで分けられ白生地に。残りはこのタイミングで抹茶を追加して練り上げる。
分けた1/3の生地は、空気を含ませながら機械と職人の手作業でさらに練り込み真っ白な棒状に。
緑の生地はパーツに合わせて組み立てやすい大きさにカットしていく。
飴のベースとなる緑の生地に白い棒生地を巻き込み「茶」の文字に組み立てる作業。外気に触れどんどん生地が固くなるため時間との勝負。
茶の字完成。この生地がバッチローラー(飴を棒状に伸ばす機械)を通り、最終的に直径1.5cm程度の飴になるという驚き。  
冷風機で風を当てながら一口サイズの飴にカットする仕上げ作業。きちんと茶の字になっているかどうか、手作業で選別する。

毎日続けているもの「茶飴

◎望月茶飴本舗
静岡県静岡市葵区片羽町62
☎054-254-8088
9:00~17:00
日曜、祝日
JR線静岡駅より車で10分
https://cha-ame.com/

■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)

(料理通信)

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