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ユネスコと共に切り拓く、新時代の持続可能なガストロノミー。ルレ・エ・シャトープロジェクト始動。

2025.09.18

photographs by Yusuke Kagayama
(右から)石川・金沢の日本料理「銭屋」髙木慎一朗氏、「King’s Joy」ギャリー・イン氏、ザ・キタノホテル東京「LʼOrangerie 光庵」の加茂健氏。

2024年11月、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)とルレ・エ・シャトー協会はパートナーシップ協定を締結した。両者は「地球上の全ての命と調和して:サステナビリティ12の約束」を掲げ、生物多様性の保全と持続可能な利用に貢献する共同プロジェクトを進める。その活動表明を目的に、今年7月、東京・大手町ザ・キタノホテル東京のメインダイニング「L’Orangerie 光庵」にて「コミットメント・ランチ」が開催された。

集まったのは、ミシュラン二ツ星とグリーンスターを獲得する金沢「銭屋」の髙木慎一朗氏、同じく二ツ星とグリーンスターを持つ中国・北京「京兆尹(King’s Joy)」のギャリー・イン氏、そしてホスト会場となった「L’Orangerie 光庵」総料理長の加茂健氏の3名である。

加茂氏の「12種類の野菜のテリーヌ」。NOTO高農園の野菜の味わいをストレートに伝えるためゼラチンを使わず、オリーブオイルでプレッセ。セロリの葉とヘーゼルナッツパウダー、オリーブオイルのクネルと、東南アジアの柑橘にアガアガを混ぜて固めたをジュレ添えて。

加茂氏が手がける料理のテーマは「身体に優しいフランス料理」。旅で疲れた人々の心身を癒す優しい味わいながら、食材のもつ力と鮮やかなハーブやスパイス使いで繊細かつビビットな余韻を残す。
一方ルレ・エ・シャトー日本韓国支部代表シェフも務める髙木氏は、提供の1秒前まで料理を進化させるのが信条。べっこう仕立ての鱧の一皿で、だしと調味料の美しく伝統的な和の味わいを見せつけた。

髙木氏の魚料理「鱧 丸茄子 吉野仕立て」。肉質がしっかりした吉川ナスの食感を損なわぬよう油で揚げて、出汁や醤油、味醂で調味した、スープともソースともいえる吉野仕立てのあんをたっぷり絡めていただく。シンプルながら日本料理の完璧なバランスを表現する一品。

印象的なのは、若きイン氏の「松茸スクウォッシュ」だ。中国の二十四節気の考えを取り入れ、東洋と西洋の伝統的なベジタリアン技術を融合させるという哲学をもつシェフは、ベースとした旬のカボチャの甘さに、マツタケの土っぽい香り、そこに中国の薬膳に用いられる“花椒(ホアジャオ)”がもつ柑橘系のフレッシュな香り、痺れる辛みを忍ばせて、ユニークでエキゾチックなニュアンスを醸した。

ギャリー・イン氏の「松茸スクウォッシュ」

幼少期に祖父の病をきっかけに食の重要性を認識し、家族全体で菜食に転向したイン氏。「食材の声に耳を澄ますことで、生態系への敬意を示したい」と語る。2018年に家族経営の3代目としてレストランの指揮を引き継ぎ、King’s JoyはフランスのONA、アメリカのEleven Madison Parkに続く、べジタリアンレストランとしては世界で三番目のミシュラン三ツ星を最年少で獲得している。

ルレ・エ・シャトーの精神が伝えられること。

昨年70周年を迎えたルレ・エ・シャトー。トロワグロ、メゾン・ピック、レフェルヴェソンスなど、三ツ星レストランの加盟も多いが、いわゆる格付けの機能はない任意加盟団体だ。料理の季節性、歴史・地域性、そして持続可能性への取組や地域コミュニティとの共生など500〜600の細かな基準に基づいた厳格な審査を経ることに加えて、2年に一度覆面で実施される細かなインスペクションでそのブランド価値は極めて高い水準で維持されている。

日本支部は全体の割合としては大きくないが、加盟施設がレストランとホテル、旅館と多様に存在し、食文化への価値観がフランスと共通しているため重要な立ち位置だという。

協会とユネスコの関係は、同協会副会長であり、ユネスコ生物多様性親善大使でもある南フランス マントンの三ツ星レストラン「ミラズール(Mirazur)」マウロ・コラグレコ氏の活動に由来する。今後はマウロ氏の活動やノウハウをもとに、加盟する世界65カ国580施設、80のレストランを網羅するネットワークで、地元文化の尊重、生物多様性の保全とその持続可能な活用に貢献していく。

「現在識別される地球上の生物800万種のうち、100万種が絶滅の危機に瀕している」—ユネスコ事務局長オードレ・アズレイ氏の言葉は重い。

卓越した美食体験を通じて、料理人、ホテリエ、そして食べ手が一丸となって後世につなぐ食の未来を切り拓く。生物多様性の保全に向かうパートナーシップ協定に、いま鮮やかな可能性が示されている。

加茂氏のデザート「キャビア・米発酵・熟成蜂蜜」。奄美大島で古くから御神酒の素と言われる伝統発酵飲料、ミキと、オリーブオイルとセロリの葉、ウォールナッツのパウダーで仕立てたアイス。

◎L’Orangerie 光庵
東京都千代田区平河町2-16-15 ザ・キタノホテル東京 2F
☎03-6261-1351
ランチ 12:00~15:00(13:30LO)
ディナー 18:00~22:00(.21:00LO)
日曜、月曜休(火曜はランチのみ営業)
東京メトロ永田町駅より徒歩約1分
https://www.kitanohotel.co.jp/tokyo/

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