【食のプロの台所】琺瑯愛が止まらない。
野田善子
2025.07.10

text by Noriko Horikoshi / photographs by Tsunenori Yamashita
連載:食のプロの台所
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。今回お邪魔した先は、どこもかしこもホーローづくし。機能性と美しさでファンの多い「野田琺瑯」の野田善子さんのお宅にお邪魔しました。
野田善子
創業91年の老舗ホーローメーカー、野田琺瑯株式会社に嫁いで56年。家業、家事、育児を両立させつつ、ヒット作の「ホワイトシリーズ」を発案、世に送り出した立役者。著書に『野田琺瑯のレシピ』(文藝春秋)。
https://www.nodahoro.com/
(TOP写真)
見渡すかぎりホーロー一色のキッチン。愛用の鍋類も、もちろんすべて野田琺瑯製だ。傷をつけないように、手入れはアクリルタワシで。長年使い込んでいる鍋のどれもが、まるで新品同様にピカピカ。愛情の深さが伝わってくる。
ロングセラーがここから生まれた
ホーローづくし。システムキッチンのキャビネットや壁面、調理器具は言うに及ばず、ドアも、スイッチプレートも、ゴミ箱までも! 噂に聞いてはいたけれど、その場に立つと圧巻の一言だ。
冷蔵庫の扉を開くと、そこにも白いホーロー容器一色の景色が。その機能性と美しさで“平成ホーローブーム”の嚆矢(こうし)となった「ホワイトシリーズ」。そして、棚の間にすっぽり収まるコンパクトな漬物容器。どれも、野田さんの主婦目線で発案し、大ヒットを引き寄せた会心作である。
「ほんっとに使い心地がいいんです。汚れ落ちがよくて、臭いは残らないし、保存性も抜群。もう自分の生活になくてはならないもの。毎日使いながら、洗いながら、うれしいうれしいと思っております」
自宅にいる時間のほとんどを過ごすという台所では、ベートーヴェンの交響曲がBGM代わり。優雅な時間が流れるかに見えて、ここは会長である夫の浩一さんとの共同ラボでもある。
「一緒に並んで料理をしながら、蓋をこうしたらとか、取っ手をこう変えようとか、そんな相談ばかり。“琺瑯バカ”ですね(笑)」
誰がなんと言おうと、自分にとって本当に使いやすいものを。その一念が、名作を生む原動力になった。おっとりしていながら、芯の強さは鋼級。まさに、惚れ抜いたホーローを地で行く人なのだ。


(雑誌『料理通信』2018 年4月号掲載)
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