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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

81歳。「毎日ゲームしよる感覚。自分の予測と注文数が一致するかどうか」

生涯現役|徳島・上勝町「彩(いろどり)」高尾晴子

2026.03.20

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


高尾晴子(たかお・はるこ)
御歳81歳 1944年(昭和19年)10月7日生まれ

東京都世田谷区生まれ徳島県勝浦郡勝浦町育ち。大阪の大学を卒業後、上勝町で花木農家を営む夫と25歳の時に結婚。息子二人を育てながら、1986年より、葉っぱビジネス「いろどり」の初期メンバーとして参画。夫婦二人三脚で栽培・出荷を行う。

(写真)作業中の高尾晴子さん。周りを明るくさせるような、年齢を感じさせないパワフルなエネルギーの持ち主。LINEやYouTubeなど、スマホも使いこなす。町に点在する所有の畑は20を超え、広さは「5〜6反ぐらいになるかな」。高尾さんが出荷している葉は約70種に上る。


左から、笹、南天、葉椿。通年で出荷するのは南天、青もみじ、笹。その他、季節の年中行事や慶事など用に、時期に合わせた商品を出荷。「特に大安吉日に商品が動きやすい」と高尾さん。年間を通して最も出荷数が多いのが年末のおせち料理シーズン。通常時の3〜4倍の注文数が押し寄せる。主要顧客は旅館やホテル、料亭や日本料理店など。  

出荷時期にベストで出せるよう
逆算して手入れするんよ

この仕事はね、午前中が勝負。毎朝8時から、その日の注文取りが始まるけん、一日の作業内容が大体8時に決まる。「やります」とパソコンの画面で注文を取ったら、責任を持って出荷に間に合うように準備。注文数や出荷量は、農協が主体になって随時システムで更新されとるけん、私ら生産者は絶えずパソコンと向き合いながら、午前中にまとめて出荷作業するんよ。

昔はファックスで注文を取っとったけど、パソコンを導入してから、随時更新されるシステムのおかげで無駄なく作業できるようになった。誰か一人に仕事が集中するのではなく、平均的に満遍なく注文を取れるのがありがたいよね。

うちの場合、主人が畑で作業して、私は注文取りから荷造りや出荷の事務作業、それと夕方に収穫するのが仕事。前日の夕方に翌日の注文をあらかたイメージして準備しとくんよ。だから毎日がゲームしよる感覚。自分の予測と注文数や内容が一致するかどうかというゲームやね。読み間違う時もあるけど、長年やってきた勘で、そんなに見誤ることがなくなってきた。


葉っぱを売るって、簡単な仕事やと思われることもあるけど、商品として綺麗に育てるためには、準備に準備を重ねなあかん。つまり、出荷する時が勝負じゃなくて、遡っての手入れが勝負。普段の手入れが物を言うわけ。この時期にこれを出したいと思ったら、逆算して手入れする必要があるんよ。

例えば古い葉を全部取って、新しい葉を出すために行う「葉むしり」も、いつやるかが大事。通年出荷する南天や青もみじに加えて、桜や梅、赤もみじや柊など、季節ものの商品もある。それぞれの出荷時期にベストな状態で出せるように、逆算して手入れするのが大切なんよ。

私はこの地域で組合ができた時からの初期メンバーの一人。元々は花木の栽培をしよったんやけど、花木は市場に出すのに1メートル20センチの高さがいる。対して葉っぱは、葉だけで良いからもう少し気楽に取り組める。元農協職員の声がけで始まった葉っぱビジネスやけど、4人おった初期メンバーはみんな他界して、今もおるのは私だけになった。それでも今は若い人もたくさん増えて、みんな頑張ってくれとう。

この仕事を始めた頃は、みんな「葉っぱなんて売れるはずがない」という感じやったけど、手応えを信じて続けるうちに、参加する人も増えた。今は年齢とともに、自分たちが無理なくできる量に絞っていきよるところ。

朝は6時半〜7時に起床。医者から塩分を控えるように言われて、最近は味噌汁を控えとるけん、ヨーグルト、牛乳と合わせてパンが多め。7時半に作業場に入って、8時から注文取りがスタート。お昼は前の日の夕飯の残りと、焼き魚とかで簡単に。それから夕方まで作業して、夕飯が6〜7時ぐらい。料理は好きやけん、時間があればあれもこれも作りたい。

忙しいと手軽なものになるけど、なるべくメニューが偏らんようにしとる。野菜は自分で作りよるけん、ほとんど買うことがない。晩御飯を食べたら、夜9時半ぐらいまで作業場で翌日の準備。この時間はテレビもつけながら、リラックスして作業しとる。寝るのは11時ぐらいやね。

80歳も過ぎて、基本的には定年退職したつもりやけど(笑)、年を重ねてもこうやって仕事できるのはありがたいこと。何より、人から「これをしなさい」と言われてやるのはただの“仕事”やけど、自分でやりたいことをやっとうけん“楽しみ”でもある。我々の年代になったら、その楽しみが一番大事。日々に(商品を)出したら生活も潤うし、面白みもある。ありがたい仕事をさせてもろうとうよ。

食事に彩(いろどり)。味は変えれんけど、彩があることでおいしさがます。やっぱり彩は大事。

徳島県上勝町で始まった、日本料理の「つまもの」に使う葉や花、山菜などを栽培・出荷・販売する「葉っぱビジネス」。上勝町は、人口約1300人、高齢化率50%を超える町。地形は平地が少なく急峻で、大規模農業には向かない地域だが、山あいの冷涼な気候で葉っぱ栽培には最適な場所だ。同町の葉っぱビジネスは、年商2億6千万円規模に。  
南天は、日焼けや寒さに焼けないように、屋根に寒冷シートをかけて栽培。1981年、異常寒波によって町の産業だったみかん栽培が大打撃を受けた。「代わりになる産業を」と奔走したのが、当時農協職員で、後に葉っぱビジネスを立ち上げた故・横石知二氏。ブランド名「彩(いろどり)」として葉っぱビジネスがスタートした。
南天は、日焼けや寒さに焼けないように、屋根に寒冷シートをかけて栽培。1981年、異常寒波によって町の産業だったみかん栽培が大打撃を受けた。「代わりになる産業を」と奔走したのが、当時農協職員で、後に葉っぱビジネスを立ち上げた故・横石知二氏。ブランド名「彩(いろどり)」として葉っぱビジネスがスタートした。
出荷用に葉の形を整える。手元には大きさを測るための目盛りが。霧吹きで表面を湿らせて箱詰めする。

毎日続けているもの
「葉っぱ

◎いろどり
徳島県勝浦郡上勝町福原字川北100番1
☎0885-46-0166
irodori.co.jp

■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)

(料理通信)

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