「いわて羊の可能性」MEETUPレポート
“地域を守る農業モデル”を知る、味わう。
2019.12.12
photographs by Hide Urabe
荒廃農地に羊を放つことで、景観が守られ、さらには肉や羊毛を出荷できる――そんな羊をトータルに活用した「いわて羊」の取組みが注目を集めています。休耕田や放棄された放牧地の雑草問題を解決するにとどまらず、新しい産業を興し、地域を活性化させる仕組みとは。その立役者である「いわて羊」の可能性を“知る”“味わう”MEETUPを、11月11日、東京・代々木上原の「クインディ」で開催しました。
「いわて羊」の取組みは多面的でサステナブル
開会に先立ち、主催者の岩手県農林水産部流通課 髙橋総括課長が挨拶。
「岩手県では、ホームスパンの文化が今も息づき、遠野ジンギスカンなど羊肉を食べる習慣が根付いています。そんな伝統に裏打ちされた『いわて羊』の取組みを大切に育てていきたい。さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを機に、岩手の食や文化をもっと国内外に広めていきたい」と語りました。
続いて、第1部:岩手の「めん羊」を知るセミナーでは、羊たちが地域を守る取組みや、飼育者の会による活動が報告されました。
岩手県では2018年から、地場産業のひとつである手紡ぎ・手織りの毛織物「ホームスパン」の作り手やめん羊生産者と連携を図りながら、県産羊毛の利用促進に取り組んでいます。羊毛ブランド「i-wool(アイウール)」を立ち上げ、「岩手(i)の生産者が愛(i)を込めて生産したウール」として羊毛活用事業を展開するほか、展示販売会なども開催。会場ではその紹介も行われました。
余韻が楽しめる料理で「いわて羊」を堪能
第2部は、「クインディ」安藤曜磁シェフによるレクチャー。現地取材に同行した安藤シェフから、「いわて羊」の特長を活かした料理が披露されました。
まずは、「いわて羊」の肉質について解説。「クセがなくて、ピュアな味わい。やわらかく、かつ、弾力がある。日本人には羊肉が苦手という人もいますが、『いわて羊』に限っては誰からも好まれると思いますね」。
この日提供された4品の料理の中から「『いわて羊』のティエピド」を実演して、肉質を際立たせる調理のポイントを解説します。イタリア語で「生温かい」を意味するティピエドは、文字どおり、ほんのり温かい状態に仕上げた料理のこと。肉に火を入れすぎないことで、「いわて羊」の持ち味であるピュアな味わいが楽しめる一皿です。
半レアな火入れ、調味を最小限に抑えた調理法は、刺し身でも食べられると言われるほどクセのない「いわて羊」の持ち味を際立たせます。加えて、「ティエピドは肉の味わいの余韻を楽しめる」と安藤シェフ。「いわて羊」の魅力が凝縮された一皿に仕上げました。
多彩な部位を多様な調理法で堪能
お待ちかね、第3部は「いわて羊」料理の試食です。「『いわて羊』のティエピド」を含め、全4品。現地取材に同行した3名のシェフが考案した、「いわて羊」の持ち味を活かすメニューが揃いました。
試食した参加者からは「羊肉は“重い”というイメージがあったが、さらっと軽くて、羊肉のイメージが変わった」「様々な部位の個性を知ることができて大満足!」「クセがないから、ガツンとステーキで食べてみたい」という声も。また、「この肉質を活かすなら、あっさりとした和食に仕立ててもおもしろいかも」など、次々にアイデアが湧き、創作意欲をかき立てられた方も多く見受けられました。
未来を見据えたこの取組みを料理人が発信することが大切
会の最後には、岩手県田野畑村でフランス料理店を営む「ロレオール田野畑」オーナーシェフ伊藤勝康さんが登壇。伊藤シェフは、仔羊が誕生した際に、ラム肉として東京都内のレストランに出荷するようアドバイスをするなど、「いわて羊」の取組みを後押ししてきたキーパーソンです。
「『梁川ひつじ飼育者の会』事務局長の平野昌志さんに相談を受けた際、“自分が暮らす地域を消滅させたくない”という強い思いに突き動かされました。飲食店で働くみなさんには、食材をきちんと選択して購入する心構えを持ってほしい。どこで誰が育ててきた食材なのかを認識して購入する。それは、ひいては後継者や環境問題の改善につながるかもしれません。今、岩手のおじいちゃん、おばあちゃんたちは、未来を見据えて『いわて羊』に取り組んでいます。料理人のみなさんが、この取組みを知り、発信していくことが大切だと思います」と語りました。
「いわて羊」は“小さくてもトータルな広がりを持つ農業が地域を守る”モデルケース。この日のイベントによって、これからの農業のあり方、地域の産業のあり方のヒントがたくさん潜んでいることを印象づけたと言えるでしょう。
◎ 問い合わせ先
岩手県農林水産部流通課
〒020-8570
岩手県盛岡市丸10番1号
☎ 019-629-5733