食の文化遺産巡り 播磨 <番外編> 「L’AS(ラス)」兼子大輔シェフが旅する豊穣の国・はりま
1970.01.01
text by Masaaki Sotsuka / photographs by Jun Kozai
フレンチの若手実力派として定評のある兼子大輔シェフが、播磨の食材生産者を訪ねました。
播磨灘の魚食文化、山田錦の故郷の日本酒文化……、見どころも味わいどころも満載の旅をレポートします。
播磨灘に魅了される
兼子大輔シェフがまず足を運んだのは、姫路市の妻鹿漁港フィッシュモール内「JF坊勢 姫路とれとれ市場」。そこでは「ぼうぜ鯖」と「ぼうぜがに」がシェフを待ち構えていた。
百聞は一食にしかず。さっそく「ぼうぜ鯖」の刺し身としゃぶしゃぶ、蒸した「ぼうぜがに」を堪能する。
血合いが少なく白く透き通った「ぼうぜ鯖」を見て「青魚とは思えない透明感!」。口へ運び、「旨味はしっかりありながら、クセや青臭さがない。いい意味で青魚っぽくないですね」とシェフ。「ぼうぜがに」も「身が大ぶりなのにきめ細かくて甘い」。
◎ JF坊勢 姫路とれとれ市場
兵庫県姫路市白浜町万代新開甲912−18
☎ 079-246-4199
「ぼうぜ鯖」の青魚を超えたこの味わいはどこから生まれるのか。兼子シェフは船に乗り、播磨灘へ向かった。
毎年6月頃、播磨灘に回遊する小サバを巻き網漁で捕えて、海上の大型生簀で育てられるという。漁業者自ら獲ってきた瀬戸内の天然イワシやイカナゴなど地の小魚を与え、冬には水温高めの徳島沖まで生簀ごと運ぶ手の掛けようと聞いて、「養殖と言っても、海の環境そのまま。限りなく天然に近いんですね」と兼子シェフ。味と育ちが結び付いて納得しきりだ。
一方の「ぼうぜがに」は、坊勢島近海でカニ刺し網漁や底引き網で獲れたワタリガニの中でも甲羅の大きさが18cm以上のものだけが、その名で呼ばれる。「秋はオスの身が旨い。冬になると、内子(卵)が詰まったメスが旨い」と地元の人が兼子シェフに囁いた。
播磨灘の海の幸の豊かさに魅了されて、牡蠣の養殖場も訪れた。播磨の牡蠣の産地は坂越、室津など10カ所。揖保川をはじめとする播磨灘に流れ込む4つの川の栄養が、この地の牡蠣を濃密にする。今回は網干へ。筏に吊り下げたホタテ貝に着床させて育てている様を間近に見る。
港に戻っていざ試食。身の詰まった網干の牡蠣は、火を通しても縮みにくい。酢牡蠣、牡蠣フライ、焼き牡蠣を賞味して、「牡蠣そのものが良いから、素材の味がストレートに出る焼き牡蠣がとりわけいいですね」。
酒米の本場の意地を見る
旅のもう一つの目玉は銘酒「龍力」の蔵元、本田商店である。
兵庫県は酒米の王者・山田錦の故郷だ。1923年、兵庫県立農事試験場で「山田穂」と「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」の交配によって誕生した。「山田錦」と命名されたのが1936年。兵庫県の酒米生産量は日本全体の約3割を占め、全国1位を誇る。山田錦に限って言えば、その約6割が兵庫県産。中でも格付けで特上を最も多く産するのが播磨地区だ。加東市、三木市の山間には、特上山田錦を産する名人が多い。
「毎年、どの田んぼの米が優れているかを探り続けた。そうしてたぐり寄せた生産者の米で仕込むのが純米大吟醸の『秋津』です」と本田眞一郎社長は語る。酒米名産地に蔵を構える造り手の意地だ。
◎ 株式会社 本田商店
兵庫県姫路市網干区高田361-1
☎ 079-273-0151
仕込み水は揖保川水系の伏流水。日本酒はまだ勉強中と言いながらも兼子シェフ、「米の味わいがくっきり出ていますね」と頬をほころばせた。
「どの生産者もはりまの風土に寄り添いながら新境地を開拓しようという気概にあふれている。播磨の食材が優れているのは、土地の力と人の力、その相乗効果によるのでしょうね」とつぶやいたシェフの言葉が何より播磨を物語る。
◎「L'AS(ラス)」
東京都港区南青山4-16-3 南青山コトリビル1F
☎ 080-3310-4058
12:00~13:00LO(土・日・祝のみ)
17:30~22:00LO
不定休
東京メトロ表参道駅より徒歩5分
http://www.las-minamiaoyama.com/
◎ 問い合わせ先
姫路市 産業振興課
http://hojonokuniharima.lantan.blue/
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